[携帯モード] [URL送信]
予想し得ない来訪者
シェイトがオズワルドに連れて来られてから既に二日が経過している。クロイツェル家の本邸、その近くの離れにシェイトはいた。
本邸は王都アージェンスタインの中にあり、距離だけで言えば学園とはさほど離れていない。

それなのにシェイトが置かれた状況は百八十度違う。必要な物は全て揃えてくれるし、身の回りの世話もしてくれる。だが自由はない。

父はまだ自分が逃げ出すとでも思っているのだろうか。それこそ思い違いもいいところだ。
シェイトは逃げるつもりなどこれっぽっちもないのだから。
それに、ここから逃げたとしてもシェイトには帰る場所などない。

これでは軟禁と変わりない。本のページを捲りながらシェイトがそう零した時、何の前触れもなく扉が開く音がした。
ノックが無かった事から侍女や召使でもないのだろう。

何にしてもシェイトには関係ない。開いたままだったページに目を落とす。
誰かが近付いて来たと思うとその人物はひゅう、と口笛を吹いた。

「あんたがシェイト?」

開口一番、ぶしつけと思える台詞にシェイトは本を閉じ、声の主を見上げる。目の前に居たのは歳若い男だった。
歳の頃は二十歳前後だろう。

腰辺りまである黄に近い金の髪を紐で縛り、うなじ辺りで纏めている。灰色の瞳には抑え切れない好奇心が見えた。
すっと伸びた鼻筋に薄い唇。涼しげな面差しをした青年である。

軽い雰囲気は感じるが、顔立ちもかなり整っていることもあって異性への受けはよさそうだ。
服装は金糸で刺繍された白いシャツに恐らくはビロードのリボンタイ、スラックスというシンプルなものだったが、使われている素材は全て高級品だろう。

顔立ちは違うが、青年が纏う雰囲気や砕けた口調はシェイトに親友の姿を彷彿とさせる。

「そうですが、どちらさまですか?」

シェイトの冷たい視線と口調に、彼は困ったように頭をかいた。しかしその仕種は驚くほど青年には似合わない。
だがすぐに気を取り直したのか、彼はにこやかに微笑んだ。

「レナート。レナート・フォン・クロイツェル。あの人から頼まれて迎えに来ただけさ」

「レナート!?」

青年の口から紡ぎ出されたレナートという名。シェイトが驚くのも無理はない。レナート・フォン・クロイツェル。オズワルドの息子にして次期クロイツェル公爵、そしてシェイトの異母兄弟である者の名だからだ。



[*前へ][次へ#]

9/55ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!