落ち込んではいられない
アリアの話を聞いたレヴィウスは衝動のまま、壁を殴りつけた。どん、という音と衝撃にアリアが体を強張らせる。
だがそれさえもレヴィウスの思考を妨げるまでには至らない。
「糞っ……!」
クリスは全て分かっていたから、甘んじてレヴィウスの拳を受けた。避けることもせず、言い訳もせずに。
ただ無言で。何故分からなかった、気づけなかった。自分の愚かさに腹が立つ。
「レヴィウス先輩……」
「ごめん、アリアちゃん。取り乱して」
心配そうに見上げて来るアリアに、レヴィウスは何とか笑みを作った。下ろした拳は血が滲んでいる。しかしそんなこと気にもならなかった。
情けない。
取り乱したこともそうだが、クリスの異変に気付けなかった。
彼がシェイトを黙って行かせたということは相当な理由があるはずなのに。
「いえ。大丈夫ですか?」
今のレヴィウスはとても見ていられなかった。きっと彼にとってシェイトは自分を“理解”してくれた存在なのだ。
「大丈夫。で、シェイトのことなんだけど、会うだけなら方法はある」
「え?」
心の内に渦巻く様々な思いを押し込んで顔を上げる。自信ありげに言ったレヴィウスをアリアは思わず見返した。クロツェル公爵の元にいるというのに、そう簡単に会えるのだろうか。
それにレヴィウスは先程、セレスタイン家の力を使っても連れ戻すことは出来ないと言っていたではないか。
「公爵がシェイトを連れて行ったのは、あいつを公爵家に迎え入れるためだ。当分は表舞台に姿を現さないだろう。……公爵の息子としては」
「どういうことですか?」
オズワルドがシェイトを公爵家に迎え入れようとしていることは分かる。だが公爵の息子としては、そう付け加えられた一言にはどんな意味が込められているのだろう。
「貴族ってのは催し事が好きでさ。夜会なんかしょっちゅうだ。シェイトはきっと公爵に連れられて出て来る。大方、親類か何かってことで。お披露目ならずとも顔を出すことに意味があるから。なら、御望み通り招待してやればいい」
不敵な笑みを浮かべてレヴィウスは唇の端を吊り上げた。貴族らしくはないが、実に彼らしい表情である。
貴族というのは体面を大事にし、パーティーを好む。社交界に顔を出す機会としては絶好のチャンスだ。公爵の息子だと公表するのはまだ先だろうが、今後のためにも彼はシェイトを連れてくるはず。
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