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命の期限
空がしらみ始めた夜明け前。《学園》の学園長室に一人の来客が訪れていた。まだ夜も明け切らぬというのに、室内にいる二人は眠そうな様子はない。
一人は灰色の髪に、ルビーを思わせる赤と深い青のオッドアイ。金の縁取りがされた黒いローブに片眼鏡を付けた青年――この部屋の主であるクリス・ローゼンクロイツ。

もう一人は二十歳前後の青年である。耳より少し長い髪は、金色の稲穂、あるいは天使たちが住む天上を思わせる眩しい黄金。
こちらも琥珀と金緑のオッドアイで、端正な顔の半分を白い仮面で隠していた。

服装はクリスとは正反対で、一点の染みもない白い外套に月長石の耳飾りを付けている。

「無理を言ったようですまないね、ラグナ君」

「いいえ。クリス様がお気になさることではありません。それに、猊下なら真っ先に貴方の元へ駆け付けていたでしょうから」

普段と彼と比べ、弱々しく微笑むクリスにラグナと呼ばれた青年は首を横に振った。
猊下――クリスの親友であるアルノルドなら友の危機に真っ先に駆け付けていただろう。

そのアルノルドに知らせて欲しくないとのクリスの願いをラグナ、いやハロルドは守っている。
代わりと言っては何だが、アルノルドのためにもラグナは最善を尽くすつもりだ。

「烙印を見せて頂けますね?」

「ああ、そうだね」

クリスは頷き、ローブを脱ぎ、下に着ていた服も取り払う。現れたのは抜けるほどに白く滑らかな肌。
だがそこには痛々しいほどの呪いの証があった。腕には堕天使を思わせる翼の刻印に、黒い茨のような紋様は既に胸にまで達している。

烙印を見たラグナは表情も変えず、何も言わない。クリスも呪いに抵抗しているようだが、ラグナが考える以上に侵食が早い。
刻印に覆われていない部分はそれそのまま、クリスの命の期限である。

「このままだともって一月、二月くらいかな」

服を着直し、ローブを羽織りながらクリスはいつもと変わらぬ口調で言った。
彼の言葉は核心を突いている。ラグナの見立てもほぼ同じだ。

「……ええ。私の見立ても同じくらいです。倦怠感や悪寒以外に何か症状はありませんか?」

この辺りは本当なら自分よりも呪いや魔法医療の専門であるフィンの役目かもしれない。
だが悪魔に関しては悪魔祓いであるラグナは本業だ。



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