親友の異変
レヴィウスの足が教室の前までのびたその時、授業終了を告げる鐘が鳴り響いた。
そこでレヴィウスは、はたと思い出す。色々あって忘れていたが、今はユーウェインの授業である。
そこまで考えた瞬間、彼の耳に入った扉が開いた音。
レヴィウスは慌てて壁に身を隠した。恐る恐る窺えば、ちょうど銀色の頭が見える。ユーウェインだ。
だが彼が自分に気付いた様子ではない。
ほっと胸を撫で下ろした瞬間、背を向けているはずのユーウェインが口を開いた。
「見逃すのは今回だけだ、セレスタイン」
咄嗟に息をすることさえ忘れてしまう。だからこの教師は少し苦手なのだ。
しかしユーウェインはレヴィウスの返事など期待していなかったようで、背を向けたまま、彼の視界から消えた。
何だかこの十分ほどでどっと疲れたような気がする。腹を探り合うようなオズワルドとの会話は予想以上に堪えた。
このまま屋上に戻って昼寝を再開したいところだが、シェイトにも聞かなければならないことがある。
レヴィウスはため息をついて教室の扉を開けた。休憩時間に入ったためか、入ってきたレヴィウスを気にするクラスメイトはいない。
シェイトの席まで来ると何やら思案している彼の襟を引っ張った。
「おい! レヴィ、ふざけるな」
いつものようにシェイトは呆れ気味に笑う。
変わったところなどない。普段の彼であるはず……。
しかし、おかしいのだ。普段の彼なら自分が襟を掴む前に気付くだろう。
本を読んでいても、何をしていてもそうだった。なのに気付かないなんて初めてである。
それくらい、シェイトは動揺していたのかもしれない。
レヴィウスは息を吸い込むと、つとめて明るく、普通に言った。
「シェイト、ちょっと顔貸せ」
「あ、ああ」
だがそこはやはり親友。レヴィウスの微かな異変に気付いたらしい。
頷きつつも微妙な顔をしている。レヴィウスはそんなシェイトを伴って教室を出た。
誰の邪魔も入らない場所といえば、屋上しか思いつかなかった。
おかしいとは思いつつも彼は何も言わず、後をついて来る。
ふと振り向けば、やはりどこか上の空というか、シェイトの銀色の瞳はここではないどこかを見つめていた。
レヴィウスの視線にも気がつかない。もしかすると彼はもう戻らない、昔を思い出しているのかもしれなかった。
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