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付き合いきれない
「確かにそう言われても仕方ない。だから“今日”は大人しく帰ることにするよ」

オズワルドの含みのある言い方にレヴィウスは心の中で舌打ちした。『今日は』ということはまだ諦めた訳ではないだろう。
それはそうだ。このオズワルドという男は簡単に諦めるような人間ではないのだ。
生半可なことでは己の考えを曲げるはずがない。

利用出来るものは何でも利用する策略家。それがオズワルド・フォン・クロイツェル。
だからこそ、この男に肉親の情などあるはずがない。

シェイトをあんな腐った場所に連れてなどいかせるものか。
親友として絶対に許さない。あんな世界にいるのは自分だけで十分だ。

「公爵、貴方の存在はシェイトを揺るがす。あいつを惑わせないで頂きたい。シェイトは貴方の道具ではないのだから」

レヴィウスは隠すことなく堂々とオズワルドを睨み付ける。
だが仮面のような笑顔と灰色の瞳からは彼の真意を推し量ることは出来なかった。

いくらレヴィウスがセレスタインの後継ぎとは言え、言っていいことと悪いことがある。無礼だと言われても文句は言えない。
しかしオズワルドは声を荒らげることも怒りを露にすることもなかった。

いつものように考えの読めない笑顔で、だが、どこか楽しそうに少年を見つめている。

「私はシェイトを道具だとは思っていないよ。君がどう思っているかは別にして」

嘘か、それとも……。ただ、オズワルドの言葉が真実だとしても、彼という人間を知るが故に到底信じられるものではない。

「どちらにせよ、俺は協力するつもりはありません。シェイトの存在が知れればどうなるか、分からぬ貴方ではないはずです。これ以上、茶番に付き合う義理もありませんので、これで失礼いたします」

この際どちらでもいい。もしシェイトの存在が社交界に知れれば大きな波紋をもたらすことになる。大貴族、クロイツェル公爵家に隠し子がいると。そうなればもう、普通でいられるはずがない。
学園にいることだって叶わないだろう。そんなのは真っ平ごめんだ。

貴族の世界を知るが故にレヴィウスは絶対にシェイトをそんな世界に引き入れたくなかった。
あくまで形式上の礼をするとレヴィウスは滅多に見せない冷笑をオズワルドに向けた。

身を翻し、オズワルドの前から去る。そんな彼を見てクロイツェル公爵は呟いた。

「レヴィウス・フォン・セレスタイン、やはり面白い」

その口元は鮮やかな笑みの形に彩られていた。



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あきゅろす。
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