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油断ならない男
レヴィウス・フォン・セレスタインは大きな欠伸をする。秋の風が少し冷たい。
レヴィウスは今、屋上で寝転がり、空を見上げていた。シェイトと出会ってから殆ど足を踏み入れることのなかった場所。

誰にも邪魔されずに少しだけ休憩するつもりが、しっかり寝過ごしていた。見なくても分かる。今は授業の真っ最中だろう。
寝そべったまま背伸びをし、けだるげに身体を起こす。

眠ったお陰か頭は冴えている。だが流石に今から授業には戻れないし、戻るつもりもない。加えてレヴィウスの記憶が正しければ、今はトラウス先生の授業だ。
戻ればしばき倒された揚句、廊下に立たされるという羞恥プレイが待っている。

貴族だろうが何だろうが彼は贔屓しない。そんなところは立派だと思う。……口に出そうとは思わないが。

「さて、ぶらぶらして教室戻るか」

このまま屋上にいるのは寒いし遠慮したい。幸い、もう授業も終わる頃だろう。
レヴィウスは無造作に頭をかくともう一度欠伸をして屋上を後にした。

案の定、廊下には誰もいなかった。万が一、教師に見つかった時は具合が悪くて休んでいたと言えば完璧だ。
たとえそれが嘘だと見抜いても正面から言える教師はそう多くない。

ということからレヴィウスは堂々と廊下を歩いていた。ただし、気分が優れないような顔をして、である。
しかしそんな演技も窓越しに見えた人物を見て吹き飛んだ。

鮮やかな青い髪に灰色の瞳。実年齢よりずっと若く見える男性はレヴィウスも何度か目にした、よく知っていると言っていい人物だった。

『何故ここに? 見間違いか? いや、違う』

確かに本人だ。セレスタイン家と並ぶ大貴族、クロイツェル公爵家、現公爵オズワルド・フォン・クロイツェル。
オズワルドは剣の腕にも優れており、魔導の才を持つと聞くが、護衛もなしに訪れたというのか。

以前は建前とは言え、何をするにも護衛を付けていたはず。一度考え始めれば気になるどころの話ではない。
そして彼は四の五の考えるより行動するタイプである。

次の瞬間にはレヴィウスは床を蹴って走り出していた。
四年以上も学園にいるのだ。オズワルドの先回りをするのは簡単だった。

「どうして貴方が学園にいるんです? 公爵。護衛もつけずに」

突然現れた少年の丁寧だが、刺のある言葉にオズワルドは柔らかな微笑を返した。

「やあ、レヴィウス君。奇遇だね。こんな所で会うとは」

そう、これなのだ。このオズワルドという男は一見、女性のように柔和な顔立ちをしているが、腹の中では何を考えているのか分からない、油断ならない男である。
油断するな、そして雰囲気に呑まれるな。レヴィウスは自分にそう言い聞かせた。



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