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クリスを蝕む呪い
「フィン、何故君がここに……」

「アレイスター様から連絡を頂きまして、クリス様、もしや……」

起き上がろうとするクリスにフィンはゆっくりと首を振り、震える声で言った。クリスの顔色は悪く、無理をしているのは分かりきっている。
そして彼がわざわざ駆けつけた理由、ただの過労なら問題ない。しかし、これは……。

「君の予想通りだよ」

捲り上げられたクリスの腕、咎の烙印が刻まれたそこには、黒い茨が巻きついたような紋様が浮かび上がっていた。
彼の腕に浮かんだ紋様を見たフィンは言葉を失った。

「呪いが進んだようだね」

黒い茨が全身に広がればクリスは死ぬだろう。間違いなく。どんな奇跡でもその運命は変えられない。
呟くクリスの声はフィンが驚くくらい静かだった。どうして平静でいられるのだろう。
もし自分が彼の立場なら、きっと死の恐怖に耐えられない。

「はい、恐らくは……」

魔法医療師はその職業柄、様々な呪詛に精通している。
だがフィンの力を持ってしても咎の烙印を消すことは出来ない。

出来るか出来ないのではない。
どんな人間でも聖人でさえもこの呪いを浄化することは不可能だ。
何故ならそれが『咎の烙印』であるから。呪いを掛けた契約者か悪魔を滅さない限り。

「遂に僕にも年貢の納め時ってのが来たのかな」

言いながらクリスは袖を下ろし、シェイトが去った扉を見つめた。
シェイトの本当の『父』の登場にそんな気さえしてくる。

昔の自分なら死など怖くないと笑い飛ばしていただろう。今も恐怖は感じない。
だがまだ生きていたいと思うのだ。誰よりも何よりも『息子』のために。

「クリス様、縁起でもないことを仰らないで下さい。きっと大丈夫です」

魔法医療師として、フィン・ジェオードとして彼は多くの者を看取ってきた。
理不尽な死も惨たらしい死も、数え切れないほど。

そんな死を見てきたフィンだからこそ、絶対に大丈夫だとは言えなかった。
どんな人間にも死は等しく訪れる。生物という器に囚われている限り、それは避けられない絶対の理だ。

「分かっているよ、フィン。自分の体のことは自分が一番ね」

体に力が入らない上に四肢が氷のように冷たいのだ。だが辛い事も苦しいこともない。
魔力や体力が落ちた訳でもないが、アスタロトの呪いは着実にクリスの体を蝕んでいた。

「いいですか、クリス様。なるべく安静にして下さい。無理は絶対に駄目ですから。それと、僕も当分は王都にいますので、何かあれば必ず連絡して下さい。いいですね?」

言い含めるフィンは誰に対しても物腰の柔らかないつもの彼ではない。魔法医療師、フィン・ジェオードだった。苦笑しつつ、クリスは大人しく頷いた。



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あきゅろす。
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