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白雪の少年
ベッドに横たわる養父はいつもより随分小さく見える。クリスとシェイトがいるのは学園長室から少し離れた所にある仮眠室だ。

あれから三十分あまり。養父が目覚める様子はまだない。じっとクリスを見つめるシェイトの耳に控えめなノックの音が届いた。
アレイスターではないだろう。彼ならわざわざノックをする必要がないはずだ。

「はい」

不思議に思いながらも返事をする。やや間があって部屋に入ってきたのは一人の少年だった。
年の頃はシェイトと同じかやや上だろうか。

白雪を思わせる白髪に透き通るような白い肌、男性にしては大きな藤色の瞳は穏やかな色を湛えている。
髪や肌の色と同じ、白いローブを纏った少年の登場にシェイトは驚きを隠せなかった。

「フィンさん!」

扉を開けて入って来た少年はマイスター、《金紅石》ルチル・ティターニアの夫にして優秀な魔法医療師、フィン・ジェオード。
驚くシェイトをよそにフィンはふわりと笑って見せた。

「こんにちは、シェイト君」

「どうしてあなたが……」

彼はリフィリアにいるはずだ。どうみても幻影を作り出すファントム・リアライズのような幻ではなく、実体に間違いない。
しかしリフィリアから駆けつけるにしては時間的に不可能である。

そんなシェイトの心を読んだように、フィンはこの場にいる経緯を話した。

「丁度用事があって王都に滞在していたんだよ。そんな時、アレイスター様からクリス様が倒れたと連絡を受けてね」

言うフィンの耳にはアクアマリンの耳飾りが揺れていた。恐らくはコネクト・ジュエルなのだろう。
確かに彼は経験豊富で頼りになる魔法医療師だ。

それに加え、リフィリアでクリスが大怪我を負った時、怪我と呪いの治療に当たったのもフィンである。
そう考えればアレイスターの判断は最善だったと言えるだろう。

それに比べ、シェイトは慌てるだけで何も出来なかった。
やはりまだ子供なんだと思えば情けなくて、悔しかった。

「シェイト君、クリス様には僕がついているから、君は授業に戻りなさい」

「……分かりました。養父のこと、お願いします」

ここにいても何も出来ないことくらい、シェイトは理解していた。
そばに居たいとは思う。だが我が儘を言う事も彼には出来なかった。シェイトはフィンに頭を下げ、クリスを起こさないよう、そっと部屋を出た。
クリスが目覚めたのは彼が退室して間もなくのことだった。



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