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ただ一つ言えること
見間違えるはずがない。シェイトの目の前に立つ彼はかつて父と呼んでいた男性だった。それよりも咄嗟に父さんとの一言が出た方が驚きである。

八年も自分を放っておいて何故、今になって自分の前に現われたのだ。
どんな思いでこの八年を過ごしていたきたか彼には絶対に分からない。

それとも、捨てたはずの過去という鎖から、自分はまだ逃れられないというのか。

「……やはりそうなんだね。シェイト、君が公爵の……」

呟いたクリスにシェイトは首を傾げる。公爵というのは何のことだ。
クリスもシェイトの様子がおかしいことに気付いたのか、心配そうに義理の息子を見る。

「シェイト?」

「……クリス殿、それは私から……。私の本当の名はオズワルド・フォン・クロイツェル」

男性の口からでた名にシェイトは絶句した。到底信じられない。では彼はずっと自分と母を騙していたというのか。
クロイツェル、それはセレスタイン家と並ぶ大貴族、四大公爵家の一つである。

しかもオズワルドと言うのは、クロイツェル家の現当主、つまりは公爵の名だ。

「本当にすまなかったと思っている。全てを隠していたこと。……でも驚いた。お前が生きているとは」

男はいや、オズワルドは目に涙を溜めて謝罪した。彼がシェイトの生存を知ったのはついこの間、学園祭の時。
八年前の忌まわしい事件で喪ったと思っていたのだ。シェイトが生きていてくれた。それだけが嬉しかった。

「では公爵、改めてお聞きしたい。シェイトをどうするおつもりですか?」

動揺のあまり、沈黙するシェイトに代わり、クリスが問い掛ける。
魔導師でもなく、学園長でもない。彼の父、クリス・ローゼンクロイツとして。

本当の父は彼だろう。しかし今はまだクリスがシェイトの父親なのだ。
公爵であろうと何であろうとそれだけは譲れない。

たとえこれがシェイトの父として、最後に出来る唯一のことになろうとも。

「出来ることなら私と共に来て欲しい」

シェイトはまだ現実を受け入れられなかった。だがこれだけは言える。

「……父さん、いえ、公爵、貴方とは一緒に行けません。貴方の知るシェイトは八年前に死にました。今の俺はクリス・ローゼンクロイツの息子、魔導師見習いシェイト・オークスです」



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