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満たされた時間
クリス・ローゼンクロイツは執務用の机を挟み、ある男性と向かい合っていた。
机に両手をつき、思案するように顎を手に乗せる。クリスは今、聞かされた話をにわかに信じることが出来なかった。

「今までお話しは……」

「全て事実です。信じられませんか?」

アレイスターから連絡を受けた時はまさかこんな事態になるとは思わなかった。
目の前の男性は驚くクリスにただ淡々と彼のいう事実を告げた。

だがそんな話、信じろと言われてすぐに信じられるはずがない。
彼の話しは今まで積み上げてきたものを壊しかねないものだったから。

「クリス殿、貴方には本当に感謝しています」

そう言って男は深々と頭を下げた。どんな理由があろうと本来なら彼が自分に頭を垂れることなどないはずなのに。
歳は確か三十五歳だと聞いたが、随分と若く見える。

二十代後半から多く見積もっても三十代前後。海のように透き通った青い髪、眼鏡ごしに見える二つの瞳はクリスの髪と同じ灰色。
顔立ちは整ってはいるが、決して近付きがたいものではなく、優しげな面差しはクリスにアルノルドを彷彿させる。

「……申し訳ありませんが、私はまだ貴方に何とお答えして良いか分かりません。ですが、確かに貴方様のいうことにも一理あります」

クリスはしばらく考えた後、机の端にある魔具に手を伸ばした。
そのまま花瓶よりも小さな魔具を引き寄せると口を近付ける。

「2-A、シェイト・オークス、至急学園長室へ」

これでいい、これでいいのだ。もし彼の話が本当なら、いや嘘であるはずがない。

「ありがとうございます」

礼をいう男にクリスは軽く頭を下げる。いくらお忍びとは言え、選択の余地はない。では自分はどうすべきなのだろうか。

分からない。突然の事にまだ頭がついていかなかった。ここまで動揺したのは何年ぶりだろう。
咎の烙印について聞かされた時もこれほど驚かなかったというのに。

そう考えたクリスは男性に気付かれないよう自嘲する。
この八年、クリスが生きてきた時間の中で僅かな、瞬きにしかすぎないが、本当に満たされた時間だった。

「シェイト・オークス、参りました」

聞き慣れた声と共にノックの音がクリスの耳に入る。
やりきれない何かに唇を噛み締めるとクリスは静かに返事をした。

「入りなさい」



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あきゅろす。
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