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力があったなら
ここ一週間ほど、リデルの様子がおかしかった。どこがどうとは言えない。だが確実に何かが変だったのだ。ファイの妹、ルビアが倒れ、原因を調べるためにリフィリアの街中に出てから。
リデルは帰って来たかと思うと目覚めたルビアの顔を見るとどこかに消え、次に帰って来た時はずぶ濡れだった。どうしたのかとのファイの問いにリデルは答えなかった。ただごめんねと呟いただけ。

「……さん、兄さん?」

ベッドから上体を起こしたプラチナブロンドの少女が心配そうに少年――ファイを見る。ファイは何でもないと首を振り、薄青の瞳を妹――ルビアに向けた。

「……まだアクアさんやリーゼロッテさんは帰ってないのよね?」

「ああ、みたいだな。レイトは昨日帰って来たよ」

妹が別の話題を口にしたことでファイはほっと胸を撫で下ろした。自分が気付いたと言うことはルビアが気付かないはずがない。しかし今、リデルにそれを指摘したとしても意味がないことを二人は理解している。

「それより、ルビアはまだ休んだ方がいい。ただでさえお前は影響を受けやすいんだから」

ファイは今だけはリデルの事を心の中に押し込め、妹を横にさせた。ただでさえ、精霊因子や魔力はルビアの目に影響を与えるのだ。基準を遥かに上回る力を身に受けたのだから、ルビアの体調が優れないのも当たり前である。

「うん。……ごめんなさい」

「謝らなくていい。今は体を休めること。眠るまで傍にいてやるから、安心してお休み」

ファイは優しくルビアの柔らかな髪を梳いた。彼のたった一人の家族――双子の妹は、はにかみながら礼を言う。これが“幸せ”なのだろう。金欲しさに売られた自分たちにとっての。
やはり疲れていたのだろう。ルビアはそれから直ぐに静かな寝息を立て始めた。

ファイは髪を梳く手を止めぬまま、妹の顔を見る。元から白い肌は更に白い。自分にリデルほどの力があったなら、妹も守ることが出来たのだろうか。

「ごめんな。俺にもっと力があったなら……」

ファイにはルビアやリデルのように強大な魔力を持ってはいない。ルビアが精霊因子を視る才を持たぬように、ファイもまた魔術を操る力である魔力を持たなかった。
精霊因子を視る力だけあってもそんなもの、ファイに取っては慰めにもならない。

「ルビア、ごめん……」

“また”妹を守ることすら出来なかった。無力感に苛まれながら、ファイは眠る妹に謝り続けた。



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あきゅろす。
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