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あの日失ったもの
『夢を見ていたのか……?』

 視界に入ったのは夕暮れに染まる街並みではなく、生い茂る木々。
 シェイトが気が付いた時には、自分は学園の生徒で木に持たれ掛かっていた。
随分と懐かしい夢だ。何故今になってそんな夢を見たのだろうか。あの日の悪夢を。
 時が経つにつれ、思い出すことの少なくなった記憶。負った心の傷が塞がった訳ではない。ただ意図して思い出さないようにしていただけ。

「あの、出来れば離してくれませんか?」

 シェイトが物思いに耽っていると、近くで遠慮がちな声した。その声に自分が誰かの腕を掴んでいることに気づく。だとしたら何と無礼だろう。非難されても仕方が無いし、言い訳もしづらい。寝ぼけていたなんて失礼ではないか。

「!? すまない!」

 シェイトがその腕に抱いていたのは、先程一年の試合に出ていた金髪の少女だった。少女――アリアに謝ると直ぐに手を離す。

 どうしてだろう。どうしてあの手を振り払う事が出来なかったのか。
 それほど強い力で引かれた訳ではない。確かに予想外の事態ではあったが、逃げることも出来たはず。なのに出来なかった。
 それはきっと、彼の瞳から流れた涙を見たから。胸が締め付けられた。

「貴方は……」

「俺はシェイト。シェイト・オークス。初めましてアリア」

 言いかけたアリアに、彼は微笑む。
 彼の名を知らない生徒なんて学園にはいない。
 シェイト・オークス。言えば学園始まって以来の天才。魔術の腕だけで無く武術にも長け、おまけに容姿端麗と来たら、女生徒に人気が無い筈がない。



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あきゅろす。
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