深い闇
「レヴィ君もどうか気をつけて。もしもの時も君達生徒に絶対に手は出させない。だけど警戒だけは怠らないで」
レヴィウスを見据える色違いの瞳は深い憂いを湛えている。だが学園長にそこまで言わせる悪魔の力とは一体どんなものなのか。
レヴィウスには想像が付かないし、例え何があろうとも契約者のように悪魔に力を求めようとは思わない。
「……分かってます。しかし何故、人は悪魔と契約するんですかね? それが破滅しか齎さないと知りつつも」
「どうだろうね……過去を取り戻したいから、かな」
それはクリスにも分からない。誰もが羨む力を持っていたクリスには。だが彼の力を持ってしても守れなかったものは沢山ある。親友アンリの命、リデルの心。一番近い存在すら守れなかった。
過去を取り戻す。それはなんて甘美な響きなんだろう。
「過去を取り戻すことは出来ないし、死んだ人間は生き返らない。それが現実だ」
レヴィウスの口調は彼にしては珍しく、低く冷たい。悪魔の力を手にしても過去を取り戻すことは出来ないし、死んだ人間が生き返ることはない。
「そうだね。でも皆、君のように強くはないんだよ」
「強くなんてありません。俺は弱い。いえ、人は弱い“いきもの”ですよ」
クリスの言葉にレヴィウスはどこか淋しげな微笑で答えた。
弱いからこそ人は悩み、悔い、力を望む。レヴィウスとて同じだ。強くなんてない。過去を取り戻せないからこそ、人は精一杯毎日を生きて行くのではないか。後悔しない事なんて有り得ないと知りつつ、悔いることがないように。
「レヴィウス先輩……」
マリウスも彼が抱える闇に触れた事はなかった。大きさは違えど人は闇を背負っているのだとマリウスは思う。
太陽のような先輩が抱える闇を垣間見た気がした。
「ま、暗い話しは置いといて。マリウス、気をつけろよ。間違ってもフィアちゃんを危険に曝すな」
ふざけ半分に美少女は貴重な財産だからな、と言うレヴィウスは先程のような冷たい顔でも口調でもなく、いつもの人好きのする笑顔をしている。
「はい。僕はフィアを守るためなら何だってします。大切な人、ですから」
彼女がいたから今の自分がある。幼なじみと言う肩書き以上に大切な人。しかしそちら方面に無縁な彼は、フィアナの頬が赤く染まっているのには気付かなかった。
『前途多難、ってか』
『ふふふ……彼、鈍いからね』
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