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父からの贈り物
「マジかよ……シャレになんないって」

戦略級魔術の発動に大悪魔の存在。クリスの口から聞いても直ぐに信じられないことばかりだ。

「それとマリウス君、大丈夫だとは思うけど、君も十分注意しておいて欲しいんだ」

「……分かりました」

真剣な表情のクリスにマリウスも重々しく頷いた。明言はしないが、逆十字が教戒を敵と見なしている事を考えると彼に危険が及ぶ確率もゼロではない。教戒を消すためにディヴァイン・クロウさえ発動させようとしたのだ。
今はマリウス・ラーグと名を変えているものの、彼は教皇アルノルド・ヴィオンの息子、マリウス・ヴィオンなのだから。

当代最強の悪魔祓いと名高いアルノルドを亡き者にするためなら息子を人質に取るだろう。現にクリスもシェイトとアリアを人質に取られたのだ。

「それで君にはコネクト・ジュエルを持っていて貰いたい」

クリスが引き出しから取り出したのは、雫型をしたエメラルドの耳飾り。これはクリスの付けているスピネルのピアスやラグナが付けていた月長石の耳飾りと同じものだ。

コネクト・ジュエルは所謂魔具であり、あらかじめ登録しておいた相手と話しが出来る優れものである。そのまま音声だけで会話することも可能だし、外して映像と音声での通話も出来る。

「僕の手作りなんだけど、貰って欲しいんだ。何かあれば必ず連絡を入れてくれるかい?」

そう言ってクリスは耳飾りを用意していた小箱に入れ、マリウスに手渡した。クリスの手作りと言うのは本当だが、実はアルノルドからの贈り物でもある。
クリスは自分で渡した方がいいと進めたのだが、アルノルドがどうしてもと言うことで今に至るという訳だ。

「はい、ありがとうございます。学園長の手を煩わせてしまい、重ね重ね申し訳ありません」

世間には知られていないにせよ、マリウスが命の危険に晒されたのは一度や二度ではない。教戒は決して綺麗なものばかりではない。聖職者の中で地位を巡って争うことも珍しくはないし、父が教皇につく時にも結構な抵抗があったらしいとも。

世界全体に布教しているアルトナ教を邪教だと言って逆十字を掲げる者たちもいた。そんな者たちに誘拐されそうになった事だってある。

だからある程度は心得ているし、対処法も理解しているつもりだ。だが逆十字(アンチクロス)には大悪魔アスタロトと契約した者がいる。しかしいくらクリスと言えども四六時中マリウスに張り付いている訳にも行かない。そのためのコネクト・ジュエルなのだ。

「フィアナ君もくれぐれも気を付けて」

「はい、大丈夫です。私がマリウスを守りますから」

え、あの……僕が守られるんだね。自信満々に宣言するフィアナにマリウスは苦笑を禁じ得なかった。



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