懐かしい夢
シェイトは夢を見ていた。幼い頃の夢。まだ自分が故郷であるディスレストにいた頃。
ある日、夕陽に照らされた丘で、一人の少女と出会う。
彼女の赤い瞳はどんな宝石より美しく、夕陽に照らされた長い髪は金細工のように煌めく。
少女はただ歌っていた。その歌声は神の祝福を受けたかのように美しく、聴く者を魅力する力があった。幼いシェイトは、優しく澄んだ歌声に一瞬にして心を奪われる。
『……誰?』
『ごめん、邪魔だったかな?』
『ううん』
『えっと、綺麗な歌だね』
咄嗟に出た言葉に少女は嬉しそうに微笑んだ。それから、シェイトは毎日のように丘へと足を運ぶようになった。
彼女との時間だけが楽しかった。母はシェイトをいないかのように扱う。唯一楽しかったのは彼女と、そして父に会う日だけ。
その父も滅多に会いに来てはくれない。
『ねぇ、私と友達になってくれない?』
そんなある日、少女は頬を赤く染め恥ずかしそうに切り出した。
もちろん、シェイトの答えは決まっている。
『もちろんだよ!』
それなのに、別れは唐突にやって来た。
“ある事情”からシェイトは故郷を離れねばならなかった。あまりに急で、シェイト自身も驚いたほどである。
『また、会えるよね……? 約束してくれる?』
『……うん』
堪えるようにうっすらと涙を浮かべた少女に、シェイトはうん、としか答える事が出来なかった。
別れてから初めて気付く。自分が彼女の名前さえ知ら無かった事に。
だがシェイトが彼女と再び会う事は二度と無かった。
戦略級魔術、ディヴァイン・クロウの暴走事故。それが公的の発表だった。
その威力は凄まじく、ディスレストを一瞬にして焦土と化した。八年経った今でも、その地には木どころか植物さえ生えぬと言う。
街に住む幾千の命が瞬く間に失われ、残ったのは嘆きと慟哭だけ。もう八年になると言うのに、何故かその少女の事を思い出した。もう失いたくなくて、無意識に視界に映った金色を引き寄せる。
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