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妖精の森で
「気持ちいい……」

 アリアはうん、と背伸びをする。大きく息を吸い込めば、生まれ変わったような気がした。
 鬱蒼と茂る木々に、あたたかな木漏れ日が気持ち良い。
 アリアが今居るのは、学園を囲うように広がるこの“妖精の森”。森は結界の役割も果たしており、魔獣や不審者の侵入を阻んでいる。
 
 柔らかな雰囲気を漂わせるこの森は、故郷を思い出させてくれた。
 しかし今日は先客がいるらしい。木にもたれ掛かるようにして眠っているのは、白と青を基調とした学園の制服に身を包んだ青灰色の髪の少年だった。

 腕に白地に青と赤のラインが入った腕章を見る限り、アリアより一つ上のニ学年を示し、赤は自分と同じく戦闘技術科専攻だと言う事が分かる。

 学園には基礎課程を始めとして、三つの専門課程が存在する。
 対魔法犯罪や魔獣戦を想定した戦闘技術科。
 魔術を利用した道具や武器《魔具》を作り出す錬金科。そして魔術による治療や薬品の制作に重点を置いた魔法医療科の三つだ。

 少年の顔を覗きこむと、どうやらぐっすり眠っているらしく、目を覚ます気配は無い。
 長い睫毛に縁取られ、閉ざされた瞼のお陰で瞳の色は分からない。とても綺麗な少年。
 何処がと問われれば、恐らく上手く言葉に表せないだろう。

 顔かたちは勿論だが、敢えて言うならば彼を構成する全て。気が付けばアリアは、少年に見とれてしまっていた。
 彼は学園始まって以来の天才。アリアでさえ、彼の名は知っている。いつも遠くから眺めるだけだった彼が目の前にいるなんて信じられなかった。

『駄目駄目……。休むのは諦めて戻るかな』

 人の顔をじっと見るなんて不躾だ。いくら彼が目を覚まさないとは言え、急に恥かしくなって立ち上がろうとする。
 瞬間、腕を引かれ、少年に倒れこむ形になってしまう。

「えっ?」



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