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過去に捕われた者
「私の……お母さんなんです。と言っても義理の、ですけど」

琥珀色の花を供えたアリアはぽつりと話し始めた。誰がとは言わない。言わずとも分かった。イヴリース・ハイウェル。《琥珀》の名を持つマイスター。

「義母さんは私を引き取ってくれた時から不治の病を抱えていたんです。でも私にもミゼルさんにも辛い何て一言も言わなくて……最後の二ヶ月はベッドから起き上がることも出来なかったけど、それでも笑っていたんです」

アリアがここを訪れたのは二年前のイヴの葬式の時だけ。でもやっと来れた。義母の想いが分かったから。誰しも大切な者の死を受け入れて、進んで行かなければない。
悲しいのはアリアだけではない。ミゼルもまた同じ想いを抱えていたのだろう。でもアリアは自分だけで精一杯で理解しようともしていなかった。

「私は……義母さんの死を受け入れられなかった。……認めたくなかったんです。だからずっとここにも来れなくて。義母の手紙を読んでやっと決心がついたんです。いつまでも悲しんでいられない。義母さんの死を受け入れた上で前に進まなければならないと思って」

シェイトに話したのも誰かに聞いて欲しかったからなのかもしれない。
シェイトもまたアリアと同じだった。どんなに振り払おうとも、忘れようとも過去という名の鎖に縛られていた。
それはあの子であり、母だった。二人の存在が今のシェイトを作ったといっても過言ではない。

あの子は優しい記憶をくれ、母は悲しみと後悔の記憶を作った。だからアリアは、未だ過去に縛られ続ける彼には眩しかった。自分はアリアの懺悔を聞くような人間ではないから。

「……そう。俺もアリアを見習わなくちゃいけないな。……でも今の俺には無理だ」

「えっ?」

最後の言葉は聞き取れなかった。でも聞き返すことも出来なくてアリアはシェイトを見た。秀麗な顔には自嘲めいた笑みが浮かんでいる。分からないけど、凄く悲しかった。

「いや、気にしないで。俺も祈らせてもらっていいかな?」

「あ、はい」

シェイトは目を閉じ、イヴリースのために祈った。気の利いた祈りの言葉なんて知らないけど、許してくれるだろうか。
アリアもまた祈った。ここに来れなかった二年間の思いを全て伝えるように。

「先輩、付き合わしてすみません。戻りましょうか」

「え、うん。でもいいのかい?」

「その気になればいつでも来られますから」

焦らなくていい。ゆっくりでいい。時間は沢山あるのだから。



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あきゅろす。
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