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本当の帰郷
「お待たせしてすみません」

花束を抱えたアリアは店の外で待ってくれていたシェイトに謝った。何分花屋など滅多に来ないため、何を買っていいか悩んでしまったのである。
種類は沢山あるし、墓前に供える花なんて知らない。だからアリアは義母が生前好きだと言っていた琥珀色の花を買った。

「いや、構わないよ。それで一体どこに行くんだい?」

二人は連れ立って歩き出す。シェイトは未だ行き先は聞いていない。リフィリアの地理にも詳しくないし、彼女が行こうとしている場所も全く見当がつかないのだ。

「内緒です。でももう直ぐ着きますよ」

大通りを抜け、住宅街を進むと段々と人通りが少なくなって来る。どうやら町外れに向かっているらしいと言うのは分かるが……。やがて目の前を塞ぐ遮蔽物が無くなり、どこまでも続く地平線と平原。そして共同墓地が姿を現した。

様々な形をした墓石が均等に並んでいる。思えば最後にここを訪れたのはもう二年も前。
当時のアリアはどうしても墓地に足を運びたくなかった。ここに来れば義母は、世界中どこを探しても居ないのだと突きつけられているような気がして。
どうしても義母の死を受け入れられなかった。認めたくなかった。だから墓地を訪れるのは、彼女にとってはとても勇気のいることだった。

だが不思議だ。今のアリアの心は驚くほどに穏やかだった。自分に宛てた手紙で義母の想いを知ったからかもしれない。
吹き抜ける柔らかな風がアリアの金色の髪を揺らした。
露になる耳につけた細い銀鎖が付いたガーネットのピアス。

義母の墓は綺麗に手入れされていた。きっとミゼルがしていたのだろう。磨き上げられた墓石にはイヴリース・ハイウェルの名と生没年が刻まれている。シェイトは何も言わない。自分の言葉を待ってくれているようだ。

『義母さん、ただいま。遅くなってごめんね。やっと帰って来たよ』

この時、アリアは本当の意味でリフィリアに、義母の元に帰って来れたのかもしれない。



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