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運命が齎した邂逅
病院を後にしたアリアはシェイトに頼んで花屋に寄らせて貰うことにした。リフィリアに住んでいた頃、殆ど足を運んだことすらない。
ミゼルも義母も花というか魔具や魔術以外に興味がなかったから。

アリアが花を手に取ろうとした時、出て行こうとした女性がアリアの目の前で何かを落とした。
細い銀鎖がついたペンダントだろうか。

「待って! 何か落としましたよ」

アリアの声に振り返ったのはまだ二十歳前後だと思われる美女だった。煌めく黄金の光を宿した双眸。長い艶やかな黒髪が風に揺られてふわりと靡いた。
胸から腰、長い足にかけて完璧なラインを描いており、街中で目にすれば誰もが振り返るだろう。

『綺麗な人……』

それがアリアの彼女に対する印象だった。声に気付いた女性が、ペンダントを拾い上げるとアリアに向けて見惚れるような笑みを作った。

「貴女が教えてくれたのね。ありがとう。これは私に取ってとても大事な物だから」

女性が落とした物はペンダント――というよりロケットだろう。精緻な細工が施されたそれは名のある細工師の作品か。
女性はそう言ってロケットを見せてくれた。

大粒の宝石が象眼された銀の蓋を開けるとそこには、一人の青年が微笑み掛けていた。その隣にはこの女性と、彼女の腕には生まれて間もない赤ん坊が抱かれている。青年と女性も幸せそうに微笑んでいた。
見ているこちらまで幸せな気持ちになってしまいそうな、そんな笑みだった。

「凄く……あったかいですね」

女性の表情が僅かに曇った。その美しい顔はアリアには計ることの出来ない深い哀しみに彩られている。
一体、何が彼女にそんな表情をさせているのだろう。知りたい衝動に駆られたが、それは見ず知らずのアリアが立ち入っていいことではない。

「とにかく、ありがとう。それじゃあ」

「あ、はい」

女性は悲しみから笑みに変えて、もう一度礼を言うと雑踏に消えて行く。アリアはそれを後ろ髪を引かれる思いで見送った。



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