信じて待つこと
ミゼルの手を取り、一心に祈るアリアをシェイトは静かに見つめていた。家族を思うという感情。母と過ごした毎日が遠い昔のように思える。
自分は母のために良い子供ではいられなかった。母にとって自分は息子ではなく、『シェイト』と言う名の少年でしかなかったのだ。残酷なまでの事実が棘となってシェイトの心に突き刺さる。
『母に存在を否定された自分は何なのだろう?』
彼にとって家族とは決して暖かいものではなかった。寧ろ辛いことの方が多かったのかもしれない。だけど義父は、クリスはシェイトの欲しかったものをくれた。“家族”を。
「ミゼルさん、私行きますね」
アリアは握っていた手を離して立ち上がった。彼女の夕日のように紅い瞳には朝見た時の愁いの色はない。満足したような、迷いを振り切った晴々した表情だった。
暗い表情は似合わない。やっぱりそうしていた方がアリアらしくて可愛いとシェイトは思った。そんな自分に驚き、無意識に至った考えを慌てて打ち消すと平静を装って聞いた。
「もう良いのかい?」
「はい。ミゼルさんのこと信じてますから」
ルチルにだって言われていたのに。自分に出来ること。それはミゼルを信じて待つこと。待つこともまた、信じることだと分かったから。だから大丈夫。私はもう見失ったりしない。例え闇の中に一点の光しか見えなくても、立ち止まることなく歩き続ける。それは奇しくもミゼルがマリウスに語った言葉と同じだった。
『迷うなとは言わない。だが立ち止まるな。足掻き続けろ』
「フィンさん、ありがとうございます」
「それが僕に出来ること、だからね」
それは思わず顔を綻ばせてしまうような柔和な、不思議な魅力を備えた笑みだ。アリアはフィンに礼をした後、くるりとシェイトの方を振り返った。
「先輩、もう一カ所付き合ってもらっていいですか?」
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