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女神への祈り
「ごめんなさい。私、もう行かなくちゃ。あなた、ミゼルちゃんのこと、お願いね。二人ともゆっくりしていって」

言うやルチルは急いだ様子で病室を出て行った。彼女が慌てている姿なんて初めて見たから何か用事でもあるのだろうか。そんなアリアの表情で察したらしいフィンが疑問に答えてくれた。

「ごめんね。急にどうしても外せない仕事が入ったみたいなんだ」

申し訳なさそうに謝るフィンにアリアは慌てて首を振った。ごたごたしていたので忘れてたいたが、ルチルは《金紅石》の名を持つマイスター。当然忙しいに決まっている。

「フィンさん、一つ教えて貰いたいんですが、ミゼルさんは身体的に異常は見つからなかったんですよね?」

と尋ねたのは、先程から考え込むような表情をしていたシェイト。何かを確かめるような少年の問いにフィンも一転、魔法医療師の顔になって頷いた。
その顔は優しげな青年と一致出来ないくらい真剣で年を経た賢者のように冷静だった。

「うん。君の言う通りだよ。彼女の体に問題はない。そうなれば当然、考えられるのは外的要因だろうね。でも……」

最も考えられる要因としては精霊因子や魔力は濃度が濃くなる程人体や生物に悪影響を与える。その肉体を変質させてしまうのだ。その例が魔獣や魔精といった人に害なす生物である。
しかし精霊因子や魔力が原因だとは考えにくい。リフィリアは確かに他の都市と比べて魔力濃度、精霊因子の濃度共に高いが、人どころか動物にさえ影響を与えるほどではない。

もし何らかの理由で異変が起きたとしても魔導師なら必ず気付くはずだし、それならミゼル一人が倒れることはないだろう。

「外的要因にしても理由が分からないんですね?」

二人の会話を聞きながらアリアはミゼルの手を握り、一刻も早く彼女が目覚めるように祈った。握った手は冷たいが、ほんの少しだけ暖かい。
それが何よりもミゼルがちゃんと生きている証に思えた。

「……悔しいけど、正にお手上げ状態だよ。僕もこんな症例、診たことがない。だけど彼女が目覚めように信じて、祈ってあげて欲しい。“想い”は決して無駄なんかじゃないから」

そう教えてくれたのはルチルだ。他人を思う人の想いは時に奇跡を起こす。それは魔法医療師として間違っているのかもしれない。だがフィンは“想い”こそ、治癒魔術よりも何よりも大切だと思うのだ。

「はい。ミゼルさん、私、待ってますから。早く起きてくれないとご飯作ってあげませんよ」

アリアは泣きそうなるのを堪えて精一杯の笑みを浮かべた。
神様なんて居ないのかもしれない。でも今は祈ることしか出来ない。女神アルトナよ、お願いです。どうかミゼルさんを助けてください。私のたった一人の家族を私から奪わないで……。



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あきゅろす。
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