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バクルスの値段
「これは……何をどうしたの?」

ハロルドから受け取ったバクルスをじっくりと眺めた後、ルチルは信じられないといった面持ちで呟いた。
バクルスは、魔法金属と呼ばれるミスリル銀で作られている。強度は勿論、魔力を込める事にも長けており、生半可な力では傷付けることすら難しい。それがここまで大きな傷が走っているとなると、一体何を受け止めればこうなるのか。

「何ってアスタロトの攻撃を受けた」

……アスタロト? ルチルは、聞き間違いではないかと耳を疑った。アスタロトと言えば魔王ルシファーの側近、魔界の公爵と謳われし大悪魔。
見た所、大きな怪我はないようだし、彼の言い分が本当なら、むしろこの程度で済んだことが幸いだろう。

「アスタロトですって!? それ、本当なの?」

「オレがルチルに嘘ついたって仕方ないだろ?」

それは確かにそうだ。彼にはここで自分に嘘をつく理由はないし、何よりバクルスの傷がハロルドが話した真実を物語っていた。
悪魔祓い、中でも異端審問官のバクルスは特殊な作りになっており、予め記憶した武器の形状を再現することが出来る。

質量は勿論変えられないが、熟達したそれもマイスター級の魔具職人が手間と労力を掛けて作る特注品で、しかも登録した本人にしか使えないため、この一本だけでもかなり値が張るのだ。それはもうぶっ飛ぶくらいに。下手をすれば家を買えるかもしれない。

「……分かったわ。ここでは何だし、取り合えず入りましょう」

ルチルも上着を羽織っているとはいえ、寝間着姿だし、このままでは風邪を引いてしまう。
修理もだが、彼には代わりとなるバクルスも渡さねばならないだろう。
ルチルは工房の扉に手を触れると静かに呟いた。

『……呪により封じられし鍵、我が魔力にて開かん。アンロック』

かちり、と鍵が開く音がした。普通の鍵では開かないようにロックの魔術を掛けてあり、開けるにはアンロックか、ある程度威力のある攻撃魔術で破壊するしかない。

ハロルドはルチルに促され、彼女が滅多に他人を立ち入らせない聖域に足を踏み入れた。明かりが付けられた工房の中は、彼女が長年相棒として来たであろう窯に使い古された金床やふいごまで様々な器具が置かれている。
ルチルは立てかけてある数本のバクルスの内、一本を手に取った。



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あきゅろす。
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