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真夜中の訪問者
同刻。ひっそりと静まり返るリフィリアの住宅街。虫の音さえ聞こえぬ真夜中にルチルは唐突に目を覚ました。
九月に入っても昼間はまだ熱いが、夜になると少し肌寒い。ルチルはベッドから上半身だけ起き上がって窓の外を見る。しかし外にはただ闇が広がっているだけだ。

「……ルチル?」

頭近くまでブランケットを被り、寝ていたはずの隣の人物が彼女の名を呼んだ。
一見すると十七、八歳くらいの寝間着姿の青年だ。白雪を思わせる白髪と藤色の瞳は寝ぼけているとか、ややとろんとしている。
ルチルはその様子にふわりと笑うと青年の頭を優しく撫でた。

「ごめんなさい。起こしちゃったみたいね」

ただでさえ彼――彼女の夫であるフィンは体が弱いのにゆっくり休んで貰わなければ。折角今日帰って来たばかりだというのにこれ以上無理はさせたくない。

「ん、大丈夫だよ」

「お休みなさい。フィン」

そう言って額に口づけると起き上がり、寝間着の上にカーディガンを羽織って寝室を出た。その足で工房へと向かう。自宅から工房までは渡り廊下を通らねばならない。
長い回廊を渡り終えたルチルは、工房の前に立つ青年を見つけた。

月光に煌めく黄金色に琥珀と金緑のオッドアイが印象的な二十歳前後の青年だった。ただ、整った顔の右半分だけが白い仮面で隠されている。

「こんな時間にどうしたの? ハロルドちゃん」

まったく自分が気付かなければ朝まで待っていたつもりなのだろうか。
やや批難めいた口調で尋ねるが、目の前の青年は申し訳なさそうな様子はこれっぽっちもない。

「このカッコの時はラグナって呼んでよ。仕方ないだろう。バクルスの破損は悪魔祓い生命に関わるんだからな」

とハロルドもとい彼の言葉に従うならラグナは、首から下げて服の中に隠してあった銀色の十字架を取り出す。
一瞬だけ淡い光が灯ったかと思うと杖――聖職者たちがバクルスと呼ぶ魔具に変化していた。ただし、杖のつけ根に裂かれたような大きな傷が入っている。



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