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魔導師
「大丈夫?」

 アリアは場外に吹き飛ばされたレティスの下に向かう。見た限りは怪我は無いようで、精々制服に泥が付いたくらいだ。尻餅をついていたレティスはぷくっと頬を膨らませ、アリアを見上げる。

「痛いです。アリアさん、少しは手加減して下さいよ」

「手加減してなかったら、今頃真っ二つかも」

 アリアは冗談めかして笑うが、レティスは本気にしたようで、顔を真っ青にして唸っている。
 勿論、真っ二つな訳ではない。

「……冗談。びっくりした?」

「え? ええっ。もう脅かさないで下さい!」

 実際、手加減をしていなければ、簡単に人を傷つけることが出来る。
 ただ、この舞台では魔術の効果が弱められる。本来なら中級魔術を受ければ吹き飛ばされるだけではすまないだろう。
 しかし、魔導師とはそれほどまでの力を持つ者たちなのだ。

 アリアたちが住む世界“シルヴァニス”は精霊因子(エレメント・ファクター)によって構成されている。 魔導師とは自らの魔力を使い、特定の旋律――精霊の詩と呼ばれる詠唱、で歌い上げる事により、大気中の精霊因子を集束させる術を扱う、異能者ともとれる存在だ。

 魔術を操るためには、魔力を持つことは勿論、世界を構成する精霊因子を認識出来、尚且つ“世界を理解”しなければならない。
 一般的に生まれながらに魔力を持ち、精霊因子を認識出来る者は二千人に一人。
 だが実際に魔導師として活躍出来る者は三千人に一人程度の狭き門だ。

 そんな特殊性もあいまって、アリアやレティスと言った多くの者たちは魔術を習うために此処学園アカデミーに通っている。

「アリアー、レティスー!」

 アリアがレティスに手を貸していると、聞き慣れた声が耳に入る。
 振り返ったアリアの目の視界に入ったのは二人の少年少女。

 肩口で切り揃えられた菫色の髪とアメジストの瞳を持つ勝ち気そうな少女に、しなやかなライトブラウンの髪にエメラルドの如き瞳の優しそうな少年。二人の姿を見たアリアの顔も思わず綻んだ。

「フィア、マリウス」

「お二人とも良い勝負でしたね」

「ありがとう。次はフィアとマリウスの試合?」

 ライトブラウンの髪の少年――マリウスは、二人に労いの言葉を掛ける。
 礼を言ったアリアはあ、と声を上げた。確か次の試合、CブロックとDブロックの代表者はフィアナとマリウスである。無言で項垂れるマリウスにフィアナは何ともいえない表情を浮かべて尋ねる。

「マリウスは私と戦いたくないわけ?」

「出来ればフィアとは戦いたくないよ」

 苦笑するマリウスだが、フィアナは彼の気がすすまない理由が分からないらしい。その意味を理解したアリアとレティスは、軽くマリウスに同情した。
 普段は勘が鋭い彼女だが、人の気持ちに関しては鈍いの一言に尽きる。

「さてと、ちょっと休んでくるね」

「えー、試合見てくれないの?」

「……見なくても結果は分かるし、何より可哀想で見てられないから」

 試合を見てくれないのか、と不満気なフィアナにアリアも笑うしかない。可哀想なのは言うまでもなくマリウスだ。彼女が相手では、彼も本気は出せないのだろう。
 意味が分からず、難しい顔になるフィアナを残し、アリアはその場を後にした。



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あきゅろす。
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