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万魔を従えし者
厳密に言えば知っているのはラグナ自身ではない。前の魂の持ち主。若しくは前世といってもいいだろう。
ラグナはクリスから受け取った羽根を右の手の平に乗せた。

『汝、偽りの姿を捨て、其の真なる姿を此処に示せ』

それは彼が生まれ持つ浄化の力。精霊の詩とも違う魔力を秘めた言霊。
艶めく漆黒の羽根は刹那の内に色を変え、美しい光彩を放つ羽根に変化していた。
堕天使のものとは思えない穢れ無き聖の気が辺りを満たす。

「浄化の奇跡か」

ラグナや教皇アルノルドといった者は常人と違い、内包する聖の気が多い。聖人の資質とも言うべきもの。

「ええ。クリス様、詳しいことは調べてみなければ分かりませんが、この羽根は恐らく……」

ラグナはそこまで言うと口を閉じて押し黙った。クリスには決定的な何かを躊躇っているような、そんな表情に思える。

「恐らく?」

だがそれでも聞かない訳にはいかない。彼女を止めると友の前で誓ったのだ。

「全ての堕天使の上に立つ悪魔の王。サタンとも呼ばれし堕天使、ルシファーのものです……」

遥か昔、天使長の座に就きながらも他の天使を率い、戦いを引き起こした最も美しき『天使』。彼がどんな思いで創造主に反旗を翻したのか。それを知る者は誰一人として居ない。
天使の三分の一を従えながらも敗北し、最も彼に近きミカエルの手により天より堕とされたルシファーは、地獄の主として君臨していると伝えられている。



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