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知っている気配
最上階にある一室、学園長室の前には在室中のプレートが掛けられていた。
ちなみに最上階は学園長室と彼専用の研究室と工房のお陰で、この部屋に辿り着くのにどれだけ時間が掛かったことか。ラグナは軽くノックをする。暫くするとはい、との声が返って来た。

「ラグナ・バーンスタインです。彼の方の命で参りました」

「開いているから入って来てくれていいよ」

失礼致します、と扉を開け中に入る。最奥にある机の前、椅子に腰掛ける灰色の青年はラグナを見てにこりと笑みを浮かべた。

「“ラグナ・バーンスタイン”。まさか君だったとはね」

アルノルドが言っていた有望な新人。そういって紹介して貰ったのは何年前だろう。
あの時と容姿は違うがクリスには分かる。いくら姿が変わろうとも人の本質は変わらないからだ。

仮面の青年は苦笑いしつつも感心していた。気付かれるだろうとの懸念はあったが、こうも早く見透かされるとは頭の下がる思いである。

「まったく……学園長殿には恐れ入ります。それと猊下から詳しい事は聞いていないのですが、本日はどのような御用件でしょう?」

ラグナが聞いたのは、クリスが持つ“あるもの”を調べるということだけ。それが何なのかも知らされていない。

「あぁ、そうだったね。これだよ」

彼が懐から取り出したのは一枚の羽根。黒く艶やめくものはカラスの羽根ではない。明らかに魔力の残り香を帯びるそれは、ラグナが知っている気配。いや、“知っていた気配”か。



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