セレスタインの器
ラグナは内心の動揺を隠しつつも表面にはおくびにも出さない。
流石はセレスタイン家の後継ぎと言ったところか。その洞察力は中々鋭いものである。
「人違いだろう。俺は知らないな」
朱色の髪の少年――レヴィウスはそう言われても心に沸いた疑念を消すことは出来なかった。
一度会っていれば大体の顔と名は覚えている。それはセレスタインを継ぐ者として求められることだからだ。
青年は人違いだと言うが違う。確かに会っている。だが分からない。思い出せない。何かが引っ掛っているのだ。
「……本当か?」
まだ納得出来ていないようだが、自分も一応仕事である。一七歳の少年に見破れたとなれば色々と面目が立たない。
「ああ」
「分かった。そういうことにしておく。あ、やべ!早く戻んないとマリウスにどやされる。そんじゃあね、お兄さん」
少年は思い出したように声を上げると、すたすたと立ち去って行った。唸ってたわりにあっさりし過ぎてないか。ラグナはレヴィウスを呆然と見送った後、小さな溜息を付いて再び歩き出した。
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