容赦ないお人
「さて、先輩方、落ち着きましたか?」
仲良く二脚の椅子に座らされたシェイトとレヴィウスはすっかり項垂れていた。
その二人とは対照的にマリウスは滅多に見せない晴れやかな笑みを浮かべている。
ちなみにシェイトとレヴィウスは動かないのではなく、動けないのだ。
理由はマリウスが紡いだ精霊の詩。無に属する魔術で不可視の魔力の鎖を作り出し、対象を拘束する呪文である。
シェイトほどの魔力の持ち主となれば、無理やり破ることは一応可能だ。しかし魔力で構築されている魔術に使用者とは別の魔力を割り込ませた場合、暴発の危険があるのだ。
「ああ、十分分かったから解いてくれ。なっ、シェイト」
見世物にされる動物の気持ちが分かった気がする。周りから向けられる視線が嫌だ。レヴィウスはそっと隣のシェイトを見遣った。
「今回ばかりは激しくお前に同意するよ」
「ねぇ、マリウス。先輩方も反省してくれているみたいだし、そろそろ許してあげて」
三人の会話を聞いていたアリアが口を挟んだ。マリウスと出会って半年は過ぎるが、いつも優しい気な彼ではなく、ここまで黒い所を見たのはアリアも初めてである。
「そうそう。マリウスってば最近ストレス溜まってたんじゃない?」
「そんな事ないよ。分かりました。アリアさんとフィアに免じて解きますね」
マリウスがそう言い終わる前に二人を包んでいた圧迫感が消えた。嘘だ。絶対溜まってるじゃん。だって笑いが怖いからね。
「ふぃ〜、助かった」
「じゃあレヴィウス先輩、課題しましょうか。勿論フィアもね」
安心したのもつかの間、ここに鬼が居ました。いや、悪魔が天使の笑みを浮かべています。逃げようにもがっしりと肩を掴まれ、叶わない。この後、図書室内にフィアナとレヴィウスの悲鳴が響き渡ったとか。
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