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情報を求む者
「おい兄ちゃん、悪いことは言わねぇ。止めときな」

男は周りを見回し声を潜めた。わざわざ小声で言わなくとも、皆それぞれで盛り上がっていることもあって聞こえはしないだろうが。
“逆十字”は一ヶ月前の宣言を境に不気味な沈黙を守っていた。当初は何らかの行動を起こすだろうと警戒されていたが、一ヶ月経った今でも動きは見られない。

ここ王都アージェンスタインもシェイアードに次ぐ大聖堂を有する都市である。
当時はこの銀竜亭でも様々な噂や憶測が飛び交っていたが直ぐに鎮静化の方向に向かった。
だが逆にある事が囁かれ始めた。彼らの中には“悪魔憑き”がいると。悪魔と背教者には関わるな。それがアルトナ教徒たちの暗黙のルール。

「しかし何でまたよりにもよって“逆十字”なんだ?」

男はまたも小声で尋ねるとグラスに砕いた氷と琥珀色の液体を注ぎ、青年に差し出した。
彼はグラスを受け取ると僅かな量を口に流し込む。そして顔の右半分を隠す仮面に手を当て妖艶に微笑んだ。

「教戒に恨みがある以外ないだろう?」

そうなれば嫌でも仮面に目が行く。仮面に隠されているものは何なのかと。しかし見目麗しい青年が隠しているとなると醜い傷に違いない。
そう思えば男は身震いを禁じえなかった。

「……直接な繋がりでは無いが情報屋を紹介してやる。そいつなら兄ちゃんが知りたい事を知ってるだろう。名前はスカーレットだ。だが今はいねぇ。夜にもう一度来な」

「恩に着る」

青年は短く礼を言うと琥珀色の液体を飲み干し、銀竜亭を後にした。



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あきゅろす。
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