[携帯モード] [URL送信]
ある酒場の一角で
王都アージェンスタインに位置するとある酒場の一角で。
今日も酒場、銀竜亭はそれなりに繁盛していた。まだ正午に差し掛かろうかと言う時間だが、中々に混み合っている。

その殆どが定職にも着かない男たちで、皆浴びるように酒を酌み交わしている。
特にこれといってやる事もなく、暇潰しに食器を磨いていた主人は来店者の存在に気付いた。

「いらっしゃい」

若い男だ。普段ならたかが一人の客に目を止めることなどないだろう。だがその青年は違った。

鮮やかな黄金色の髪に左の瞳は湖底に陽光が射し込んだような金緑の色。
街中を歩けば誰もが振り返る美貌の持ち主であったが、顔の右半分が劇や舞踏会で付けるような白い仮面で隠されている。
仮面から覗いているのは煌めく琥珀色の瞳だけで、左半分が整っているが故に奇抜さを引き立てていた。

青年は空いていたカウンター席に座るとおもむろに口を開く。

「……情報が欲しい」

情報を求めて酒場を訪れる者は多い。ただでさえこう言う場所は噂や情報が飛び交っている。人の口に戸は立てられないとはよく言ったものだ。
とは言うものの、尾鰭が付いていたり、外れを掴まされることも少ないない。
青年はすっと小銭を差し出し、周りに気付かれないように主人に握らせた。

「どんな情報がお望みだい?」

そそくさと小銭をポケットに突っ込みながら主人は問う。

「……逆十字」

ぽつりと呟かれた言葉は彼を絶句させるに十分だった。それは約一ヶ月前、教戒を襲った者たちの名だったからだ。



[*前へ][次へ#]

6/55ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!