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超越者たちの会話
ラクレイン王国、王都アージェンスタイン郊外に位置する最大の魔導師育成機関――学園(アカデミー)。その最上階にある学園長室は、何と言うか学園長の部屋にしては変ったものだった。

簡素とも言える壁を飾るのは、独特なタッチで描かれた美しい絵画で、暁を背に高翔する鳥が目を惹く。ちなみにこの絵は部屋の主である学園長が、あくまで趣味として描いたものである。

部屋の両脇には魔術専門書から精霊の生態に関する本まで、様々な本が収められた本棚が並び、部屋の四分の一を占める強大な机の上は、さながら泥棒に入られたの如く荒れ、書類やら何やらが散乱している。

「……それは全く災難だったね。一応僕の方でも調べてみるよ」

椅子に持たれかかるように座る男は掌に宝石を乗せたまま、苦笑いする。彼は男と言うよりも青年と言っていい。

肩まである灰色の髪を紐で適当に結び、左肩に流しており、朱と青のオッドアイは掌に持つ宝石に向けられている。彼が学園長――クリス・ローゼンクロイツだった。

『すまない。それは助かるよ』

クリスに応えたのは、金掛かった茶の髪と翡翠色の瞳を持つ半透明の若い男。悪魔祓いが纏う黒の聖衣に身を包む彼こそ、アルトナ教皇、アルノルド・ヴィオンである。

「アル、君に折り入って頼みがあるんだけど構わないかな?」

『クリスが私に頼み事なんて珍しいね』

確かに自分は他人に頼み事なんて滅多にしない。それは別にプライドがあるからではなくて、彼の場合、大体の事は自分一人で出来てしまうからだ。

「これなんだけど……」

クリスが懐から取り出したもの。それはカラスの翼とはまた違う一枚の漆黒の羽だった。

「リデルと共にいた堕天使が落とした羽だ。僕も一通り調べたんだけど、かなり力のある堕天使だとしか分からなくてね」

学園がリデルに襲われた時、クリスの義理の息子であるシェイトが相対した悪魔は低く見積もっても伯爵級だろう。
いくらクリスが才溢れる魔導師でも人間だ。苦手なものの一つや二つはある。そもそも彼は調べるという事自体苦手なのだ。

『私の部下でちょうど王都に調査を頼んでいる者がいるから“彼”に言ってみよう。大丈夫、私より正確だよ。名前は“ラグナ・バーンスタイン”。近い内に寄らせるよ』

クリスはありがとう、と礼を言うと魔具――コネクト・ジュエルの接続を切った。



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