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混沌と秩序を司るもの
そこは、おおよそこの世のものとは思えぬ空間だった。
彼方まで続く薄い闇。草木どころか地面さえなく、それどころか天と地の境すら存在しない。

『アイオーン。いえ、“混沌の支配者”。あの少年が“そう”なのね』

どこか鈴の音に似た声の主は、眼前に居る強大な何かを見上げた。ともすれば闇に同化しそうな体と違い、浮かび上がる白銀の瞳は僅かに細められている。
折り畳まれてもなお、黒耀石の如き羽毛の翼は存在感を示し、背に広がっていた。

そう、それは竜だった。彼――アイオーンは自らの足元に佇む“彼女”を見やった。

『“秩序の調停者”よ。何を考えている?』

“彼女”は闇の中、一点に煌めく星のような光だった。ほのかに銀の光彩を帯びた翼と長い尾。淡い金色の羽毛に覆われた美しい霊鳥は、深い緋色の双眸に何を写しているのか。

『貴方に片翼があるようにわたしにも片割れが居るのは知っているでしょう? 貴方の“王”が覚醒(めざ)めたのなら“あの子”の目覚めも近い…………あの子と彼が出会ったことも必然。全ては運命(さだ)められた事』

全ては繋がっている。自分たちは“混沌”と“秩序”より生まれし世界の自我。創世の女神アルトナとは似て非なるもの。愚かな人間(ひと)よ。お前たちは何を望む?

『……それは分かっている。もう二度と失いはしない。我らはそのための盾であり矛なのだ』

『ええ、でもあの子たちがそうまでして護った世界に価値なんてあるのかしら……』

彼女は自嘲気味に微笑し、もう二度と戻らない過去を視ていた。



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あきゅろす。
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