《瑠璃》のミゼル 「やあ、久しぶり」 ミゼルと呼ばれた女性はよっと手を挙げ、親し気にアリアに笑い掛けた。 「アリアの知り合い?」 「はい、私を育ててくれた人のお弟子さんなんです」 ミゼルはアリアの育ての親の弟子でもあり、自分を可愛がってくれた姉のような存在だ。さっぱりした性格から兄とも言えるかもしれないが。 「へぇ……初めまして。俺はシェイト・オークスと言います」 シェイトはミゼルに自らの名を告げ、アリアの先輩であることを話した。 「ワタシは細工師にして魔具職人のミゼルだ」 ミゼルもシェイトに倣い自らも自己紹介する。露店にアリアとシェイト以外の客はない。 「貴女はマイスターですよね?」 視線を並べられた装飾品から逸らさぬまま、シェイトは問うた。それに対してミゼルは、関心したような驚いたような表情を浮かべている。 「……ほう。流石《金剛石》の息子だけはある」 彼女は掛けていた眼鏡を外し、ふぅと息を吐き出した。 マイスター。それは魔具職人協会――通称協会から職人の中の職人と認められた一握りの者たち。 魔具職人の中でも限られた者だけが名乗ることを許され、唯一無二の二つ名が与えられる。 「……知っていたんですか」 アリアだけが不思議そうにシェイトとミゼルを交互に見つめる。 「名前を聞くまでは知らなかったさ。改めて名乗ろう。ワタシは《瑠璃》のミゼルだ」 《瑠璃》。それが彼女に与えられた唯一無二の名。そして《金剛石》とは、シェイトの養父クリスのことだ。彼もまたミゼルに勝るとも劣らないマイスターである。 [*前へ][次へ#] [戻る] |