汝、見守る者
「ミシェル様、ありがとうございます」
「いいえ、私は少しだけ貴方の手助けをしたに過ぎません。迷える魂を導くのは私達の役目ですから」
ミシェルは静かに首を振ると優しく微笑んだ。
人の中でもマリウスの様に凄烈な魂を持つ者は稀だ。それ故に彼らは脆く、傷付きやすい。まるでそれが代償だと言わんばかりに。
「随分話し込んでしまったようですね。フィアナさんの所へ行ってあげて下さい」
ミシェルに言われて初めてマリウスは、話し込んでいた事に気付く。あれから少なくとも十分から十五分は経っているだろう。
「はい、本当にありがとうございました」
マリウスは丁寧に礼を述べると会計を済まし、フィアナのもとへと急いだ。
「……マリウス様、貴方もまた光に愛された者なのですよ」
去り行くマリウスを見つめたまま、ミシェルは呟く。偶然にもそれはレヴィウスが発した言葉と同じであった。
「お姉ちゃん、ありがとう! バイバイ!」
「ううん。それじゃあね」
フィアナはピンクのワンピースを着た少女に向けて手を振った。彼女の母親もそれと同時に会釈する。雑踏に消えて行く母子を見ながらフィアナは、ベンチに座り直した。
「遅くなってごめん。はい、オレンジジュースでよかったかな?」
律儀に謝り、僅かに乱れた息を整えたマリウスはフィアナの隣に腰かける。
「うん。ありがと」
ジュースを受け取ったフィアナはちらり、とマリウスの顔を盗み見た。僅か十五分前の憂いを帯びた表情では無く、どこか吹っ切れたような表情だった。
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