[携帯モード] [URL送信]
汝、見守る者
「ミシェル様、ありがとうございます」

「いいえ、私は少しだけ貴方の手助けをしたに過ぎません。迷える魂を導くのは私達の役目ですから」

ミシェルは静かに首を振ると優しく微笑んだ。
人の中でもマリウスの様に凄烈な魂を持つ者は稀だ。それ故に彼らは脆く、傷付きやすい。まるでそれが代償だと言わんばかりに。

「随分話し込んでしまったようですね。フィアナさんの所へ行ってあげて下さい」

ミシェルに言われて初めてマリウスは、話し込んでいた事に気付く。あれから少なくとも十分から十五分は経っているだろう。

「はい、本当にありがとうございました」

マリウスは丁寧に礼を述べると会計を済まし、フィアナのもとへと急いだ。

「……マリウス様、貴方もまた光に愛された者なのですよ」

去り行くマリウスを見つめたまま、ミシェルは呟く。偶然にもそれはレヴィウスが発した言葉と同じであった。


「お姉ちゃん、ありがとう! バイバイ!」

「ううん。それじゃあね」

フィアナはピンクのワンピースを着た少女に向けて手を振った。彼女の母親もそれと同時に会釈する。雑踏に消えて行く母子を見ながらフィアナは、ベンチに座り直した。

「遅くなってごめん。はい、オレンジジュースでよかったかな?」

律儀に謝り、僅かに乱れた息を整えたマリウスはフィアナの隣に腰かける。

「うん。ありがと」

ジュースを受け取ったフィアナはちらり、とマリウスの顔を盗み見た。僅か十五分前の憂いを帯びた表情では無く、どこか吹っ切れたような表情だった。



[*前へ][次へ#]

10/54ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!