心に響く言葉
「何か悩み事でもおありですか」
ミシェルは、マリウスの心の内を見透かしたようにあくまで何気なく問うた。
「……分かります?」
自分では普通だと思うがそれ程までに分かりやすいのだろうか。
「一応本職ですからね。貴方が悩んでいるくらい分かります。それに……目に見えるものが全てではありません。私で良ければ話して頂けませんか?」
ミシェルは真っ直ぐにマリウスの緑の瞳を見据える。彼の青い瞳は、海よりも空よりも美しく、澄んでいた。
「……僕はあの人とどう接していいのか分からない。それを覚悟して自分で決めた道だった筈なのに今更迷うのです。僕の選択は間違っていたのではないかと。心配してくれたフィア――幼なじみを傷付けてまで自分は何をしているのか、と」
ミシェルには何に悩んでいるのかは言わなくとも分かるだろう。今になって決意が揺らぐ。もっと別の道を選ぶ事も出来たのではないのか。……自分は迷ってばかりだ。
「幼なじみの方は、私が言うまでも無く貴方はお分かりでしょう。貴殿方の間には余計な言葉は要らないのではありませんか? 『ありがとう』と『ごめんなさい』それが一番だと思いますよ」
ミシェルは柔らかく微笑んだ。見守るように慈しむように。
フィアは許してくれるだろうか。心配してくれた彼女を傷付けた弱い僕を。
「……あの方は、お父様は、貴方がどんな選択をしたとしても貴方を責めないでしょう。後悔しない選択なんてありません。貴方は貴方が信じた道を行きなさい。あの方は何時も言っていました。『私が不甲斐ないばかりにあの子に重荷を背負わせてしまった』と」
違う、重荷なんかじゃない。どうして自分は気付かなかったんだろう。一番辛いのはあの人なのに。知らず知らずに涙が滲んだ。自分は分かったつもりで何も分かっていなかったんだ。こんなにも父と母に守られていた。
「もっと自分に自信を持って下さい。貴方は貴方が思うより愛されている。それを知るべきです」
ミシェルの言葉は、どんなに繕った言葉よりマリウスの心に深く響いた。
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