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プロローグ
 少年は確かに幸せだったのだ。例え母の愛が自分に向けられていないと知りつつも。幼い彼は信じていた。いつか、そう母が振り向いてくれると。そう信じて疑わなかった。だからどんなことでも耐えられた。それなのに、

「来ないで、化け物っ!!」

 感情のままに叫んだのは、緩やかに波打つ長い青灰色の髪を持つ美しい女性。
 その美しい顔は今や恐怖で引きつり、銀の瞳からは大粒の涙が流れ出ていた。彼女の視線は目の前にいるよく似た顔立ちの少年に向けられている。銀の瞳に宿るのは恐怖であり、隠し切れない憎しみでもある。
 しかしその少年は不思議そうに女性を見上げていた。

『どうして? どうして化け物なんて言うの?』

 そう、少年には理解出来なかったのだ。ただ、ただ普通の人より少し強い力を持ってるだけなのに。この力は確かに己を無視して暴れまわる。
 けれど、自らが望んだ訳ではないのだ。傷つけたいわけではない。ただ、与えて欲しい。愛を。
 何故? どうして? 化け物と言われなければならないのだろう。少年は一人自問し続けた。その答えすら見つけられぬまま……。


『……汝、蒼氷の化身にして刹那の光を与えし者。皇の片鱗たる氷槍よ、我が喚び声に応え具現せよ! アイシクル・レイン!』

 白亜の舞台に涼やかな声と共に蒼い魔法陣が描き出され、燐光を纏った氷の魔槍が具現化される。その数実に十。
 舞台に居るのは対照的な二人。一人は氷槍を出現させた黒髪に鳶色の瞳の青年。
 相手は只佇んでいるだけだが、何故か彼の表情には焦りが見える。

 そして黒髪の青年の向かい側に立つのは、青灰色の髪に銀の瞳を持つ美しい少年。その表情は黒髪の青年とはまるで対照的に、穏やかな笑みを浮かべている。
 黒髪の青年は氷槍に命じる。青年の呼び掛けに応じ、氷の槍は驟雨の如く青髪の少年へと降り注いだ。

『聖域の守護者たる天の御使いよ。我が声を聞き届け賜え。其は楽園に座する清澄なる翼。今、大いなる力の片鱗貸し与え、我を穢れし闇から守護せよ!セイント・フォース!』

 少年を護るように燦然と輝く光の柱が顕現する。彼を貫く筈だった氷の槍は光柱に阻まれ、行き場を失った槍は虚しく地面に突き刺さる。
 予想外の事態に黒髪の青年は思わず動きを止めた。

「なっ!」

「……冥府の番人にして死の魔神よ。我が声を聞け。汝、鮮烈なる死を纏いし者にして、生者を喰らう背徳の使者。我に仇なす愚者よ、汝が末路は光無き闇と知れ。ヘル・ジャッジメント」

 辺りが闇に包まれたかと思うと、歌うような青年の呼び掛けに応じ、鎌を擡げた黒衣の使者が顕現する。
 魔神は音も無く黒塗りの刃を振り上げた。と同時に黒髪の青年は糸が切れたかの用に崩れ落ちる。
 しん。と周りは静まりかえる中、

『勝者、シェイト・オークス!』

 エコーが掛かったアナウンスと同時に、静寂を歓声が切り裂いた。



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あきゅろす。
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