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在りし日の残影
「凄く楽になりました。ありがとうございます」

シェイトはクラウに礼を言い、深々と頭を下げた。
彼女も満更ではないようで頬が僅かに朱に染まっている。

『クリスの息子って事でサービスしとくわ。出世払いで許してあげる』

「はい」

精霊や妖精には本当に驚かされる。彼女らは精霊の詩さえ使わずに癒しや浄化の奇跡を起こす。
それは人には無い力だ。

「クラウ、態々ありがとう」

クリスの顔に浮かぶのは少年のように屈託のない無邪気な笑み。本当に年齢不詳な義父だ。

少なくともシェイトが彼に引き取られた八年前からクリスの姿は変わっていない。二十代の姿のままだ。

とは言っても年相応に見える時もあれば老成した印象を受ける時もある。類稀なる魔導師なら老いを止めることは可能なのだが、完全とは言えないのだ。
だがクリスに拾われてから彼は全く年を経ていないように見える。シェイトは一度だけクリスに変わらぬ容姿の事を尋ねたことがあった。

『これはね、過ぎた力に手を出した罰。決して赦されぬ罪の烙印なんだ』

詳しくは教えてくれなかった。そう言って悲しそうに微笑んだだけ。過去を懐かしむように、過ぎた事を後悔するように。彼の瞳が何を映していたのか今のシェイトにも分からない。
それでもシェイトにとって“クリス・ローゼンクロイツ”は魔導師として敬愛する人物であり、いつか越えるべき壁であり、誇るべき父だ。

何があろうともその考えは変わらないし、変えるつもりもない。いつか自分も彼と同じ場所に立つ事が出来るのだろうか?



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あきゅろす。
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