例え、夢でも幻でも
そこは清潔感溢れる部屋だった。微かに感じる消毒液の匂いに、目に入る物の殆んどが白で揃えられている。
時計さえも見当たらい部屋はまるで外界から切り離されたかのよう。
爽やかな風が吹く度、染み一つない真っ白なカーテンが風に揺れる。
三つあるベッドの内の一つに青灰色の髪の青年が横たえられていた。
呼吸はしているが浅く、秀麗な美貌も顔色のせいで生気がないように見える。
アリアはベッドの前の椅子に腰掛けていた。
倒れたシェイトをここ、保健室に運んだのはアリアとマリウス、フィアナだった。
意識を失った体は重く、到底一人で運べるような状態ではなく二人に助けを求めた。
魔法医療師であるミリアムによると、ただの貧血という訳でもないらしい。原因は不明、だそうだ。
眠るシェイトに苦悶の表情はない。何処までも安らかな寝顔だった。その時、シェイトの瞼が開かれ美しい銀の瞳が露になる。
「アリ……ア?」
まだ深い微睡みの中に居るのか僅かに焦点が合っていない。
「はい……」
ぼやけたシェイトの視界に鮮やかな金色と深い緋が映る。シェイトは思わず手を伸ばしていた。
かつて自分の手は何も掴めなかった。大切なモノは全て自分の手から零れ落ちてしまった。
それでも、手を伸ばさずには居られなかった。
「はい……」
アリアは何度も頷きながら、伸ばされた彼の手を握りしめる。その手は信じられないくらい冷たかった。
あぁ、やっと掴む事が出来た。夢でも幻でも構わない。自分の手は確かに大切なモノに届いたのだ。
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