近くて遠い距離
「君の事はシェイトから聞いているよ」
「先輩からですか?」
クリスの思わぬ言葉に思わず聞き返すアリア。
確かに学園始まって以来の天才と噂される彼なら学園長と話す機会は多そうだ。
だがシェイトと知り合ったのはついこの間なのに何故……。
「ああ、少し、ね。それにしても君もシェイト同様強い魔力を持っているようだ」
クリスの視線はアリアの耳にあるピアスに注がれている。このガーネットのピアスは魔力増幅の無く、魔力を制限する魔具である。
彼女を育ててくれた大切な人からの贈り物。態々誕生石であるガーネットにしてくれた事をアリアは嬉しく思う。
「普通の魔具では直ぐに壊れてしまいますから」
許容量の問題なのか普通の魔具だと数日と持たず砕けてしまうのだ。
「シェイトもそう言ってぼやいていたよ」
やっぱりシェイトとクリスは学園長と生徒では無く個人的な知り合いなのだろうか?アリアが思い切ってクリスに訪ねようとした瞬間、
「誰が何だって?」
クリスの言葉に答えたのはシェイト・オークスその人だった。制服ではあるが、半袖のシャツ姿はとても嵌まっていて、まるで彼のために誂えたかのように良く似合う。左耳にはサファイアのピアスはなく、ブレスレットやアーマーリング等のシルバーアクセサリーを身につけていた。
「やあ、シェイト。さて、邪魔者は退散しようかな」
おどけて言いながらもクリスは、何処か嬉しそうな表情を浮かべその場を去って行った。
「……」
互いに無言。クリスが去った後、二人の間に気まずい雰囲気が流れた。あの歌の事を先輩は何も聞かないでくれた。私も何も聞かなかった。
でも、それで良いんだと心の中で思っていたのも事実。
誰にでも人には触れられたくない秘密、過去、心の傷がある。其処に踏み込む程、親しくも無い。二人は愚かでも無謀でもなかった。
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