何もかもが違う二人 今まで自分は彼の何を見ていたのだろう。つまらないことに囚われていたのはマリウスの方だったのかもしれない。幼い頃から、ずっとフィアナと一緒だった。遊ぶ時はいつも一緒だったし、性格は全く違うのにとても楽しかったのだ。 イワンは何かにつけてマリウスに絡んできて、会う度に気に入らないと言われていた気がする。お互い、第一印象があまり良くなかったのだろう。それは仕方のないことなのかもしれない。マリウスは教皇の息子で、聖職者の家系。イワンはクルスラー家の分家筋に辺り、やがては分家を継ぐ立場。何かもが違う。 「そんな妙な顔をされるとな」 「すみません。でも、イワンさんとこんな話が出来るとは思いませんでしたから」 「ふん。別に親切心から言っている訳じゃない」 礼を言ったまでは良いものの、いまいち彼との距離感が分からない。それはそうだろう。イワンはある意味、幼馴染と言ってもいい存在だが、腹を割って話したことなどなかった。因縁をつけて来ることもあったが、何よりフィアナが彼と共にいることを望まなかったのだ。それが表情に出ていたのかもしれない。彼は不本意そうな顔をしている。慌てて理由をつけても、イワンが少しでもマリウスを心配してくれていたことは分かる。 「はい。でも悪い方ではないのは知っていましたから」 「俺は器用じゃない。何と言っていいか分からないし、俺は所詮、分家の人間だ」 「イワンさん……」 自嘲するように笑う青年は、いつも己に自信を持っていたとは思えない。その自信の裏に努力があることはマリウスもよく知っていた。練習などしていないように見せかけて、裏で努力を重ねる。だからこそ、イワンを心から嫌うことなど出来なかったのだ。 所詮は分家。彼の口から聞くとは思わなかった言葉。あくまで補佐でしかないと言いたいのかもしれない。 「もっと自信を持て。お前に足りないものは自信だ。俺だってお前の努力は知ってる」 「はい……!」 マリウスがイワンの努力を知っていたように、彼もまた努力していた自分を知っていたのだ。照れくさそうに頭を掻き、視線を逸らした青年に思わず笑みが溢れた。すると、彼は居た堪れなくなったのか、わざとらしく咳払いをする。 「そろそろ戻るぞ。シオンさんたちが心配する」 「ええ。行きましょうか」 二人は並んで歩き出す。まさかイワンと並んで歩くなんて昨日までのマリウスなら夢にも思わなかっただろう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |