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アテにしている
 きっと簡単なことなのだろう。落ち着いて、自分の心と向きあえば答えは自ずと分かる。嫌いなはずがない。彼女の歌声は幼きシェイトの心を揺さぶった。アリアがあの少女だと知った時、心を満たしたのは安堵と歓喜。もう一度出会えたことに感謝したい。
 彼女と約束したのだ。もう一度、ディスレストへ行くと。いつ果たせるかも分からない約束だが、あの場所には辛い記憶も楽しい記憶も眠っている。楽しいだけでも、悲しいだけでもない。故郷とはそういうものではないのだろうか。
 アリアを思うと、様々な思いがこみ上げてくる。当時は気付かなかったが、今思えば、きっとあれが初恋だったのだろう。この気持ちに名を付けるとすれば、それは……。

「……好き、かもしれません。いえ、好きなんだと思います」

「随分と曖昧だな。まあ、答えが聞けただけで上出来か」

 ミゼルからは苦笑いが返って来る。それはそうかもしれない。自分でも煮え切らない答えだと理解していたから。彼女が言う通り、難しく考える必要はなかった。認めてしまえば、こんなにも簡単なことだったのだから。
 そばにいたい、いて欲しい。少しでもアリアが背負ったものを一緒に背負いたいと思う。もしかしてミゼルを失望させてしまっただろうか。それでも、これが今の自分が出せる精一杯の答えだ。稽古を続けるレヴィウスたちを横目にシェイトは苦笑する。

「でも、まだ伝える気はありません。自分の気持ちだってはっきりしていませんし、何より、アリアのお母さんのこともありますから。今の彼女にはとてもそんな余裕はないと思います」

「そうか、そうだな。よく分かってるじゃないか、少年」

 くしゃくしゃと髪を掻き回されると落ち着かない。ミゼルは面倒見が良いと思うし、本当にアリアを大事にしている。例え血のつながりがなくとも、彼女たちは家族なのだ。シェイトとクリスのように。
 まだアリアには伝えられない。半ば確信しているとは言え、中途半端な気持ちで伝えたくはない。自分ともう一度向き合ってみたかった。胸を張って好きだと言えるまで伝えられない。アリアも今は母の、リデルのことで一杯だろう。ミゼルはふと髪をかき回していた手を止め、母を思わせる笑みを浮かべた。

「少年の気持ちが聞けて良かったよ。あの子を頼む。ワタシにはワタシの、少年には少年の役目がある。ワタシが出来ないことをキミは出来るんだ。自信を持て。人一人の力には限界があるが、そもそも一人で何とかしようと思う自体、傲慢だろう? 頼るべき所は頼ればいい。ワタシもキミをアテにしているぞ?」



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