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予想外の人物
 召喚魔術とは癒しの魔術と並び、最も素養が問われる魔術である。例えばずば抜けた魔力を持つ魔術師でも才能がなければ小さな精霊すら呼び出せない。
 逆に魔術師としては平均的な能力しか持たぬ者が召喚魔術の達人として名を馳せる事もある。遥か古来より存在して来た魔術師達だが、彼らにとって召喚魔術は未だ謎多き魔術体系に他ならない。


 きりの良い所まで読んだアリアは読み掛けの本を閉じ、元の位置に戻す。全て授業で習っていたからだ。図書室に備え付けられているテーブルや椅子、本棚の全ては年代を感じさせるものだが品が良く、手入れがしっかりされている。落ち着いた雰囲気の図書室がアリアは好きだ。誰にも邪魔される事はないし、何より騒がしくない。ふう、と息を吐いた所で目当ての本が目に入る。少しばかり高いが届くだろう。そう高を括って本棚へと手を伸ばす。がほんの少し届かない。

(あと少しなのに……踏み台ないかな)

 あ、と思った瞬間、自分より背の高い誰かが後ろから本を手に取り、差し出してくれた。はい、どうぞ、と。反射的に礼を言い、振り向くと青年が微笑んでいる。癖のない灰色の髪を肩口まで伸ばし、漆黒のローブを身に纏った彼は、見知らぬ相手ではない。

「が、学園長!」

 上擦った声が出たのも仕方が無い。頭は真っ白で何を言っていいか分からない。あかと蒼のオッドアイにモノクルを着けた年齢不詳の学園長は、アリアの表情を一頻り楽しんだ後、口を開く。

「確かアリア・ハイウェル君だったかな?」

「は、はい」

 慌てふためくこちらを余所にクリスは人好きのする笑みを浮かべている。学園長が生徒の前に姿を見せる機会はけして多くない。休暇前か行事前だけと言っても過言では無いだろう。それに加え、彼の姿は何年も前から変わらずにいるという学園七不思議を耳にした事もある。生徒にとって学園長、クリス・ローゼンクロイツは謎多きの人物だった。



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あきゅろす。
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