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アリアが背負うもの
 どうやらシオンに気に入られたらしいレヴィウスはみっちりと稽古を付けられている。マリウスもそんな彼を不憫に思ったのか、稽古に付き合っていた。シェイトはと言えば、一人離れた場所で一息ついている。ちなみに十数分後にはレヴィウスと交代することになっていた。シオンに気に入られたのはシェイトも同じらしい。十六歳の娘がいるとは思えない若々しさを持つ彼は、やはりフィアナに似ている。
 こんなに体を動かしたのは久しぶりで、体は鉛のように重い。しかし、感じたのは心地よい疲労感だった。その時、頬に冷たい何かが押し当てられる。驚いて振り向こうとするが、耳に届いた声に納得した。

「お疲れさん。流石はクルスラー家当主だけあって、シオン殿は強いな」

「ミゼルさん……!」

「ごきげんよう、少年。アリアを訪ねて来たんだが、どうやら留守のようだな」

 よっ、と手を上げて微笑んだのは、群青色の髪をした女性――ミゼル。彼女の手には紙コップが握られており、それが冷たさの正体だろう。アリアを訪ねて来たそうだが、生憎フィアナたちと街に出ている。何を思ったのか、彼女はシェイトの隣に腰掛けた。アリアが帰るまで待っているつもりなのかもしれない。

「なあ、少年。アリアが好きか?」

 唐突に投げかけられた問いに、シェイトは一瞬、呼吸を忘れた。まさかそう尋ねられるとは思わなかったからだ。明らかに彼女の言う『好き』は友人としてのものではなかったからかもしれない。直感的にそう感じたのだ。まるで好きな食べ物は何か、と何気なく尋ねるような気軽さで、だが誤魔化しは許さないと彼女の笑顔が物語っている。ミゼルはアリアにとって姉同然の存在。実際、彼女はアリアを目に入れても痛くないほど可愛いと言っていた。
 どの答えが最善か。考えてみても分からない。そんなシェイトを見兼ねたのか、ミゼルが苦笑しながら言う。

「難しく考える必要はないさ。なあ、少年。アリアはワタシにとって妹のような存在だ。あの子が沢山のものを背負っているのは知っている。でも、ワタシではその重荷を一緒に背負ってやることは出来ないんだ。少年に押し付けるつもりもない。ただ、どう思ってるのか知りたいのさ」

 アリアが背負っているのもの。まだ十五歳の少女だと言うのに、何故世界は彼女にばかり過酷な運命を与えるのか。ミゼルもそう思っているのだろう。



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