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名前をつけてしまえば
「ありがとう。その……自分で言うのもなんだけど、あまり友達がいないから嬉しいわ。手紙、送っていい?」

「はい、勿論です! いつでも送って下さい」

 アリアが魔導師の卵でノルンが聖人であることは変えられない。住む世界が違うことだって分かっている。だが、それと友人となることはまた別だ。聖人が孤独でなければならない理由などないのだから。それに、アリアは彼女が聖人であろうとなかろうと、友人になりたいと思う。聖人とは知らず、学園で出会った時からそう思っていた。
 半ば諦めていたのだ。こうしてノルンと話せることを。

「ねえ、『オークス先輩』ってあの時の青い髪の?」

「……はい。ノルンさんも会っていましたよね」

 ここまでくれば、隠すのも無駄だろう。ノルンも一度会っている。あの時、シェイトは名乗らなかったが、彼女にはばれているのだろう。ただ、少しだけ意外だったのは、恋の話に興味がありそうな所。いや、ノルンだって十六歳であるし、聖人も他の聖職者同様、結婚は出来る。アリアの目から見てもノルンとシグフェルズはお似合いに思えた。
 シェイトへの想いが恋なのか、それとも別の何かなのか。判断がつかないのは、アリアがまだ恋を知らないから。契約者は愛する者を失い、教戒に復讐しようとした。父を亡くし、悲しみのあまり全てから背を向けた母。それほどまでに苛烈な感情をアリアは知らない。

「別に無理して名前なんて付けなくていいと思う。いつか分かる。焦る必要なんてないし。私も……今は考えたくないから」

「そうですね。そうかもしれません」

 今はまだ先輩と後輩でいたいと思う自分も確かにいるのだ。今の関係が心地よくて、一歩を踏み出すことを躊躇ってしまう。もし認めてしまえば、名をつけてしまえば、きっと以前と同じではいられない。だから今はこのままでいい。ノルンも同じように思っているのだろうか。聖人と聖人。同じ力を持っているからこそ、遠くて近い。手を伸ばしても届かない、まるで背中合わせのように。

「おーい、二人して何ブルーになってんの? ほらほら、何だか分からないけど、元気出す! 幸せ逃げちゃうよ」

「それは大変ですわね。ほら、ノルンさんももっと笑って。ノルンさんの笑顔はとっても可愛らしいですわ。きっとシグフェルズさんもイチコロですわよ」

 ノルンはフィアナに背中を叩かれ、シャルロッテの言葉を聞き、豪快に飲み物を噴き出した。原因は言うまでもなく、後者である。



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