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何か出来ると思っていた
 それから暫くお茶を楽しんだアリアたちだったが、ノルンの様子がおかしいことに気づく。どこか上の空というか、塞ぎ込んでいるように見えたのだ。笑みだって向けてくれるのに、やはり沈んでいるように見える。断言するにはまだノルンという少女を知ってはいないが、何故かそう思えた。フィアナとシャルロッテがラケシスと話している隙を見はらかい、そっと尋ねてみる。

「あの、ノルンさん。元気がないように見えますが、どうかされました?」

「え? そう、そう見える? 確かにそうかもしれない。……ねえ、アリア。アリアは自分の無力さを感じたことがある?」

「……はい。魔導の才を持っていたとしても、いえ、持っているからこそ思うのかもしれません。私はいつも見ているだけで何も出来ませんでした。どうして自分はこんなにも無力なんだろうって。力が全てではないと分かっていますが、思わずにはいられないんです」

 ノルンの瞳に浮かぶのは悲しみ、だろうか。あるいは己への怒りなのかもしれない。だからアリアも正直に答えた。いっそ何の力も持たなければ諦められたのかもしれない。なまじ力を持つがゆえにいやでも無力さを突きつけられる。伸ばした手はいつも届かないままで。けれど、ノルンほどの人が無力さを感じることがあるのだろうか。類まれなる魔導の才を持ち、聖人でもある彼女が。否、だからこそなのかもしれない。
 ノルンはティーカップの中で揺れる液体を見つめたまま、自嘲するように笑う。

「私はもう少し何かが出来ると思ってた。そのための力だってシグが教えてくれたから。でも、この力でも救えなかった……! どうしようもないことだって理解しているわ。それでも、納得なんて出来ない」

 それは血を叫ぶような叫びだった。アリアは掛ける言葉も見つけられずに沈黙するしかない。彼女が何を背負っているのか想像することしか出来ないが、聖人であってもノルンだって生きた人間。無力さを感じることもある。そんな当たり前のことさえこの国の人々は見えていないのかもしれない。
 まだ正式な悪魔祓いではなくても、彼女だって遠くない近い未来、悪魔と戦うことになる。アリア如きが立ち入って良い問題ではないかもしれないが、ノルンの力になりたいと思う。

「私がどんな言葉を重ねても、ノルンさんは自分を許せないでしょう。私もそうでしたから。でも、あえて言わせて下さい。無理に納得しなくてもいいと思います。ノルンさんはこれから沢山の人を救うでしょう。……救えない人もいるかもしれない。その方たちを覚えていてあげて下さい。忘れられてしまうのは悲しいから」

 どうすればこの思いをノルンに伝えることが出来るだろう。ディスレストが消えた時、アリアは生き残った己を責めた。どうしようもないことだったのだろう。だが、だからと言って納得出来なかった。生き残った事が罪だと。誰が言葉を重ねても自分で自分を許せない。彼女はこれから先、聖人、悪魔祓いとして沢山の人々を救うだろう。例え力を尽くしても、救えない命だってある。その度にノルンは己を責めるに違いない。



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あきゅろす。
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