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獲物を狙う狩人
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、ノルンさんはそのシグフェルズさんのことがお好きなのですか?」

 シャルロッテがそう口にした瞬間、ノルンはものの見事に固まった。彫像のように微動だにせず、現実逃避しているようにも見える。フィアナは唖然としており、アリアも苦笑するしかない。
 シャルロッテの言う好き、は言うまでもなく異性として、の意味だ。その手の話題は得意ではないし、下手に口を出せば自分に返って来そうで怖い。安全なのは黙っていることである。よほど予想外のことだったのか、ノルンはまだ混乱しているよう。

「べ、別に……嫌いじゃないけど。頼りないようで頼りになるし、優しいし、笑いかけてくれるし……でも、たまに意地悪で、訳が分からない」

「それ、好きって言うんじゃ……」

 シグフェルズについて語る彼女は、羞恥のためか頬が赤く染まっている。色恋には疎いはずのフィアナでも気づいたのだ。どこかマリウスを彷彿させる少年。優しげな彼は学園祭の時もノルンを気に掛けていた。ただの同級生ではないことは何となく分かっていたが、アリアもアリアで、恋愛方面には鈍い。よって口を出せずにいたのだ。
 シャルロッテはと言えば、ぺリドットを思わせる瞳を煌かせ、身を乗り出すほどの勢いである。

「ノルンとシグフェルズさんは、見ているこちらが羨ましくなるくらい仲がいいんですよ」

「ラ、ラケシスこそ、クロトがいるじゃない!」

「まあ、ラケシスさんにもそんな方がいらっしゃるのですか?」

 ノルンの口から出た、クロト、の名に今度はラケシスが狼狽する番だった。異性であることは間違いない。彼女の反応を見れば分かる。会ったばかりだと言うのに、嬉々として聞き出そうとするシャルロッテの目はもはや獲物を狙う狩人の目だ。ラケシスはどう見てもうろたえており、幼馴染です、とどうにか口にしていた。
 口を挟むことの出来なかったフィアナがぽつりと呟く。

「シャルロッテ恐るべし……!」

「……だね」

 まさか恋愛について彼女がここまで食いつくとは思わなかった。クラスメイトたちが恋の話で盛り上がっているのは知っているが、改めて話したことがない。アリアもフィアナもその話題を避けていたのだ。
 若干遠い目をしていると、がしりとシャルロッテに両肩を掴まれる。

「アリアさん!」

「は、はい!」

 がっしりと肩を掴まれていれば、逃げられない。非常に嫌な予感がするのは気のせいだろうか。矛先から逃れられたノルンとラケシスは明らかにほっとした表情を浮かべている。



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