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知って欲しい
「そうね。シグの場合は特殊だから。……悪魔の呪いが原因だったの。呪いを掛けたのは高位の悪魔で、その悪魔のせいでシグはご両親を失った。そしてその呪いのせいで、聖人の力が封じられていた」

 ノルンが口にした事実は、あまりにも重かった。高位の悪魔であればある程、呪いは強力なものとなる。現にクリスはアスタロトの呪いを受け、命の危険に晒された。聖人の力は悪魔に対して強力なアドバンテージとなるが、力を操るのは人だ。力の器として人と悪魔では比べるまでもない。覚醒していたのならまだしも、シグフェルズは力に目覚める前に呪いによって封じられたのだから仕方がないだろう。
 以前、学園祭で聞いたことを思い出す。彼は魔導の才を持たない。それなのに、己の努力のみで見習いとなったのだ。悪魔によって両親を奪われたのみならず、女神の加護たる力に目覚めることも出来なかった。そんなことがあるだろうか。

「もしかして、聞いてはいけないことでしたか? 申し訳ありませんわ。知らずに失礼なことを」

「別に不思議に思うのは当然でしょう。これくらいでシグは怒らないから大丈夫よ。私も、誰かに知って欲しかったのかもしれない。真実を知る人は一握りで、皆シグの辛さを知らない」

 事情を聞いたアリアたちは、シグフェルズの思わぬ過去に言葉を見つけることが出来なかった。聞いてはならないことだったのかもしれない。それでも、ノルンの表情はどこか晴れやかである。呪いを受けて力を封じられていた。とても公に出来ることはではないし、シグフェルズに呪いを掛けた高位の悪魔の存在も気にはなる。聖人の力を封じるほどの力を持つ悪魔。以前、相対したアスタロトと同格である可能性もあるだろう。
 まさか彼の両親が悪魔に命を奪われたなんて、この街に住むアルトナ教徒たちは知らない。

「私はシグが聖人だって分かって、驚いたし、シグには普通でいて欲しかった。いいえ、心のどこかで嬉しいとも思ってしまった。私たちは『同じ』なんだって。聖人とそうでない人はやっぱり違うから」

「わたくし、少しノルンさんの気持ちが分かるような気がします。わたくしの両親は魔導の才を持ちませんでしたし、おば様たちも同様でした。でも、レヴィウス様は違った。嬉しかったんです。憧れたレヴィウス様と同じ力を持ち、同じ場所に立てることが」

 聖人はアルトナ教徒から崇められる存在。決して信心深いとは言えないアリアでさえ、聖人と聞けば平静ではいられない。注目され、期待されることがどれだけ辛いか。普通であって欲しいと思う反面、同じであって欲しいという矛盾した感情。苦しみや悲しみを分かち合える。そして喜びも。
 シャルロッテはそんな彼女の気持ちが分かるという。魔導の才を持つ者は少ない。彼女の両親は才を持っていなかったし、レヴィウスの家族も彼以外は魔導の才を持たないらしい。魔導の才を持たない者には分からない事情や悲哀、そして何より力を持つ同士、同じ場所に立つことが出来る。やはり、何を言っても持たぬ者と持たざる者の間に立ちはだかるものは多いのだ。



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あきゅろす。
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