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少しだけ悔しくて
「いつ来ても此処は凄いね」

 吹き抜けになった天井、見上げる程に高い本棚は圧巻だ。踏み台を使ってもアリアの身長では届かないだろう。《魔導図書館》の名で呼ばれるだけあってここは他にはない雰囲気に満ちている。侵し難い静謐さがありながら、全てを解き明かそうとする静かな情熱が同居していた。
 夏期休暇中という事もあり人影も疎らだが、課題に勤しむ生徒をちらほら見掛ける。

「さて、じゃあ復習から始めようか、フィア?」

「うえっ」

 フィアナが椅子に腰掛けた直後、マリウスはにこやかにそう言った。疑問形で終わっていようがフィアナに拒否権などあるはずがない。細やかな抵抗を試みた所で優しいが容赦ない幼馴染が許してくれるはずもなく。ただ、分かっていても実行したくなるのが人間の性。
 マリウスの言葉を肯定するようにテーブルの上には既に何冊もの歴史書や魔導書が積み上げられている。彼とアリアが本棚から選び出した本達だ。幼馴染と二人の方が何かとはかどるかもしれない。そう思い、アリアは召喚魔術の専門書の本棚を探す。

「フィアは記憶力良いんだから頑張れば出来るはずだよ?」

「……うー、わかった。ね、アリアはどうするの? ってあれ? 居ない」

「さ、まずは四十五ページから行くよ」

 はぁい、と弱々しい返事をして本を開く。余談だがマリウスは頭が良いのは勿論、教え方も上手い。優しくて運動神経だって良いのだからてんで駄目な所の一つくらいあってもいいはずだ。そう思ってしまう辺り、フィアナはまだ子供なのかもしれないが。

(背だっていつの間にか追い越されてたし)

 隣に座るマリウスを盗み見ながら考える。ほんの二、三年程前までは同じくらいだったのに、幼馴染はいつの間にか自分を追い越していた。今の彼は記憶に残る姿より少しだけ精悍で、何故かは分からないが胸が騒いだ。


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あきゅろす。
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