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ノルン・アルレーゼ
 フィアナとシャルロッテについては完全に頭から抜けていた。銀色の影を追うことで精一杯だったのだ。脚力に多少の自信はあったが、この人混みでは全力では走れない。けれど、特徴的な銀色を見失うことはなかった。後ろ姿しか見えないが、あれはノルンだ。この機会を逃せば、もう聖人である彼女に会えないかもしれない。そんな思いがアリアの心の中を占めていた。人混みを掻き分け、彼女の名を呼ぶ。

「あの、ノルンさん!」

「アリア……?」

 名を呼ばれ振り返った少女は、アリアが会いたかった人。光を弾いて煌く髪は銀の滝のようで、人を惹き付ける。瞳は海よりも深い瑠璃色。彼女こそ、ノルン・アルレーゼ。やはり、見間違いなどではなかったのだ。振り返った少女は、シンプルな黒いコートに身を包んでいる。コートの下は恐らく、聖衣なのだろう。彼女は瞳を大きく見開き、こちらを見つめていた。驚いているのかもしれない。アリアがシェイアードにいるとは夢にも思わなかったのだろうか。ノルンの隣にいる少女が、彼女の袖を引いた。

「ノルン、お知り合い?」

 ノルンと同年代の少女なのだろう。薄紅色の髪を側頭部で結わえた愛らしい少女だったが、覗いているのは片方の瞳のみ。左目は黒い眼帯に覆われている。そこだけが奇妙で、愛らしい彼女には不似合いだ。身に着けた揃いのコートから、少女もまた見習いの悪魔祓いなのだろう。連れは彼女だけで以前、学園祭で会ったシグフェルズはいないよう。

「ええ。彼女はアリア。学園の魔導師見習いよ」

「初めまして。アリア・ハイウェルと言います」

「わたしはラケシス・オストヴァルドです。初めまして」

 深々と頭を下げるアリアとラケシス。よろしくお願いします。いえいえ、こちらこそ、と恐縮する二人が面白かったのか、ノルンは声を上げて笑っている。
 アリアはノルンが何故分かっているのか分からない。何かおかしなことでもしただろうか。答えを求めるようにラケシスを見るが、彼女もよく分かっていないようだ。そこに、やっとフィアナとシャルロッテも追いついた。

「あー、アリア! やっと追いついた!」

「ア、アリアさんったら突然走り出すんですもの。驚かせないで下さい。もしや、この方がノルンさんですの?」

 フィアナはもう、と唇を尖らせて仁王立ちをする。これは少しばかり怒らせてしまったかもしれない。彼女の後ろから顔を出したシャルロッテは、ノルンの姿を見て瞳を輝かせた。



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