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彼女の色彩
 聖人の儀を終えた法都シェイアードは、ようやく普段の静けさを取り戻しつつあった。未だ街行く人の数は多かったが、王都ほどではない。アリアはフィアナとシャルロッテと共に街に出ていた。男性陣は男性陣で今頃、クルスラー邸で稽古でもしているのだろう。稽古をつけるのは、言うまでもなくフィアナの父、シオンである。
 これと言った目的がある訳ではない。もう直ぐ冬季休暇も終わるため、その前に楽しんでおこう、とその程度のものだ。アリアはもう一度、ノルンに会いたいとも思っていたが、それも難しい。彼女は聖人であるたし、加えて見習いだ。ハロルドに言付けようとしても、彼も異端審問官である。

「やっぱり、まだ人多いな。今年は聖人の儀があったから余計に、だろうけど」

「巡礼目的の方も多いみたいですわね」

 なにせ、五年ぶりに聖人が現れたのだ。直接目にすることは出来なくても、アルトナ教の総本山を訪れたいと思う者は多いのだろう。ノルン以降、現れることのなかった聖人。学園祭の時に彼女と共にいた少年、シグフェルズだとは夢にも思わなかった。どこかマリウスに似た雰囲気を持つ彼はノルンを案じていて、彼女もまたシグフェルズを案じていた。
 彼女と話がしたい。くだらないことだっていいから。ほう、と息を吐いたシャルロッテは、アリアの様子がおかしいことに気づく。

「アリアさん、どうかなさって?」

「あ……ごめんなさい。ノルンさんに会いたいなって思って」

「相手は聖人様だしね。そう簡単に会えないか」

 ただの悪魔祓い見習いなら、まだ会う方法はあっただろう。だが、現実はノルンもシグフェルズも聖人で、会うことすら容易ではない。あーあ、とフィアナが両手を上げたその時だ。見知った色彩が視界をよぎったのは。空に輝く星に似た紫掛った銀。それは紛れもない『彼女』の色彩だ。

「ノルンさん!」

「あ、ちょっと……アリア! 急に走り出しちゃって、もう!!」

「お、お待ちになって。アリアさん、フィアナさん!」

 鮮やかな銀色は人混みに紛れてすぐに見えなくなってしまう。この機を逃せば会えないかもしれない。そんな思いに突き動かされ、アリアは石畳みを蹴った。そんな彼女を追ってフィアナとシャルロッテも走りだす。いくら人が少なくなったとは言え、人混みの中でただ一人を探し当てることは難しい。魔力を追えればよかったのだが、一度会ったきりで波長を覚えていなかったのだ。その上、人混みの中で魔力を追えるほどの技量を持ちあわせていなかった。ならば走るしかない。単純で簡単だが、もっとも効果的だ。



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あきゅろす。
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